L'art de croire             竹下節子ブログ

ヨーロッパの20世紀は75年しかなかった  その2

この記事は以前の記事の続きです。長くなると思うので少しずつ書いていきます。

今の世界を見ていると、中東やアフリカはもとより、世界のいたるところで内戦はあるし、好戦的ナショナリズムは肥大していっているし、かなりペシミスティックにならずにはおれない。

その中で、ヨーロッパは、たとえユーロ圏が危機になろうとも.移民やセキュリティの問題が増大しようとも、少なくともヨーロッパの国同士で戦争をすることをやめよう、とした決意だけはしっかり根を張っているようだ。

宗教戦争もすれば民族戦争も侵略戦争も互いにしかけ合ってきた葛藤の歴史をくぐりぬけたヨーロッパがここに至ったのは、考えれば考えるほど、簡単なことではなかった。

困難を克服して目標を達成するのは、困難を避けることによってではなく、困難をくぐりぬけることによってのみ可能だという言葉の意味がつくづく分かる。

ヨーロッパ、特にフランスがふりかざすユニヴァーサリズムは、よく、ヨーロッパ中心主義に過ぎないと批判されるけれど、それは半分しかあたっていない。

二度の大戦の戦場となった時に、彼らは自分たちがそれまでに振りかざしてきた多くの近代理念の正しさを自らが易々と、いや情熱をこめて裏切ってきたことを自覚した。

政教分離や人権主義の普遍性を信じてきたがゆえに、「戦争」という特殊な時間において彼らは自分たちがそれらをいかに簡単に手離してしまったかについて愕然とせざるを得なかったのだ。

人は自信の喪失や罪悪感や敗北感や後悔とどう向かい合うかによって、その後で成長、成熟の道へ再出発できるかが決まる。

ここではフランスに焦点を当てよう。

第一次大戦前のフランスは、フランス革命やナポレオン帝政、王政復古、第二次帝政などを経て、すでに、近代革命の理念と、実際の歴史の展開との乖離を自覚せざるを得ない状況にあった。

そこで、一九世紀末に普仏戦争の敗北に続く第三共和政の樹立によって、今度こそは、「理想の共和国主義」を打ち立てたつもりになっていた。

実は、普仏戦争の敗北がナショナリズムを育てていたので、それが、「共和国」という新たな偶像崇拝へ向かったという面がある。

その偶像崇拝のために真っ先に排除しなくてはならなかったのが、フランス革命の時と同じく、「カトリック教会」であった。
「共和国」教の敵はいつも王政とカトリック教会で、20世紀のはじめには、それまでフランスの福祉や教育の多くの部分をになっていたカトリックの修道会が国外へ追放されることになった。1905年のコンブ法によって、国中の教会は国家に没収されてしまった。

この頃の一般的なフランス人の宗教イメージは、伝統的なカトリックは女子供の教育のために残しておく、しかしまともな大人なら合理主義、理性主義、共和国主義を旗印にしなくてはならない、といったところだろうか。

それは、敬虔なカトリックの立場を維持していた知識人においても同様だった。

彼らのカトリック信仰は私的で霊的な部分であり、いわば自分の良心においても「政教分離」がなされていたと言えるだろう。
その意味では、信仰を自分と神の個人的な関係に近いものにしていたアメリカのプロテスタンティズムに近い生活信条が採用されていたと言える。

そんなフランスで、1870年以来の恨みが蓄積しているドイツとの間での戦争開始の空気が濃密になってきた。

今からちょうど百年前の1914年、8月1日午後4時頃。

フランス中にくまなくある小教区の教会から警鐘の連打が鳴り響いた。

人々は何が起こったかをすぐに理解した。

戦争が始まるのだ。

翌日曜日には驚くべきことが起こった。

教会に人があふれていたのだ。

もうずっと教会に足を踏み入れていなかった男たちが告解室に詰めかけてあらそうように罪を懺悔した。

男たちは涙を浮かべて聖体パンを拝受した。ロザリオや各種聖人のメダルが配られ続けた。(続く)
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by mariastella | 2014-01-05 21:02 | フランス
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