L'art de croire             竹下節子ブログ

人名の読み方

ネットで読める1/8付けの『天声人語』に梅と月を結びつけた文の例が引かれていた。

そこに

「日本にも藤原定家(ふじわらのさだいえ)がいる。〈梅の花にほひを移す袖のうへに軒漏る月の影ぞあらそふ〉。歌人塚本邦雄の『定家百首(ていかひゃくしゅ)』…」

とあった。

藤原定家(ふじわらのさだいえ)とわざわざルビがあるのに驚いた。
しかもはじめて耳にする読み方だ。今まで「ていか」というインプットしかない。

そのすぐあとに『定家百首(ていかひゃくしゅ)』という読みがあるので少しほっとしたが、違和感が残った。

すると、講談社の広報誌『本』の2013/11号の高島俊男さんの連載の中に穂積陳重の著書が引かれていて、そこに、

「なおこの陳重という名、今の人名辞典には「のぶしげ」とあるが、当時世間では「ホヅミチンジュウ」と言っていた。原敬をハラケイと言うように、著名人は音(おん)で言うのがならわしでもあり、それが敬称でもあった。」

とあった。

そうだったのか。

「今の人名辞典」からはそのような「ならわし」が消えて訓読みになっているので、今や作文のお手本のように言われている朝日新聞のコラムはそちらにご丁寧に合わせたのだろう。

でも本当に今の子供たちは藤原定家(ふじわらのさだいえ)と学校で習うのだろうか。教科書にはなんと載っているのだろう。

もう亡くなられたけれど、同時代人でも吉本隆明(よしもと たかあき)も「りゅうめい」と普通に言っていたし、高橋康也(たかはし やすなり)も「こうや」と言う人は多かったと思う。それでも、それが「著名人は音(おん)で言うのがならわしでもあり、それが敬称でもあった」ことの踏襲だったとは気づかなかった。しかし、音読みするのが「敬称」というのは、やはり中国風の方が高級とか偉そうだとかいう感覚だったのだろうか。雅号っぽいからだろうか。

私は単にシラブルが減って読みやすいからだとなんとなく思っていた。

そうなると、著名人でも音読みしにくい名前を持つ人は気の毒だ。

けれども音読みできるのに西郷隆盛を「りゅうせい」と言うのを耳にしたことはないし、坂本龍馬のように音読みの通称がそのまま人名辞典に載ってしまう人もいる。

そういえば木戸孝允も「きど たかよし』でも「こういん」でもよかったよなあと思ってwikipediaを検索すると、

「名の孝允は「こういん」と有職読み」

とあったので、その「有職読み」のリンクを開くと「故実読み」や芸名、ペンネームを含めていろいろ出てきたのでおもしろかった。

姓も名も有職読みされている人には、そういえばいつも名を出す時に悩んでしまう柳宗悦(リュウソウエツでもヤナギムネヨシでもOK)の名が挙がっていたので、安心した。

大佛次郞(おさらぎ じろう)のように、鎌倉が好きで長谷の大仏の裏手に住んでいたから「大仏」をペンネームにしたのにそれがまためずらしい読みの名の人もいる。

これもネットで検索したら、

「オホ(大)ソレ(焼畑)キ(場所)」の変化で、山地の焼畑のあった所。「オサラギ」に大仏を当てたのは、「大仏」が「オホ(大)サラギ(新参者)」であったことによる。以上「日本地名辞典 吉田茂樹著」

などという解説があった。

大仏次郎がいなかったら、「大仏」をおさらぎと読める人はまずいないだろう。

私は日本のテレビなどを見ないから、ニュース類はほぼネットの文字情報なので、大阪市長の橋下さんなど知識として「はしもと」さんと読むのは知っていても、普段字面しか目に入らないから、この人の話題が出ると「はしした」さんと言わないように気をつけなければいけない。

フランス語名でも特に外国語由来のものはどう読んでいいかわからない。同世代の著名人ならば、この頃はネットでインタビューその他を聞けるので実際に本人を前にしてどう呼んでいるかを確認することができて助かる。それをさらにカタカナ表記するとなるとますますややこしく、悩むことになる。

来春出版予定のユダ論に引用したそれなりに有名な司祭の名のカタカナ表記に迷って、編集者からアナトール・フランスの訳本まで送ってもらったのだけれど、結局納得できなかった。かなりいいかげんな表記が通用している。

系図学をやっていると、役所や教会に届けた表記ミスで同じ姓からどんどん枝分かれしていく様子も見える。もちろん時代によって綴りも変わっていく。

今の日本など姓はともかく名の方はDQNネームとかキラキラネームとかが流行っているそうで、「天響(てぃな) 緑輝(さふぁいあ) 火星(まあず) 葵絆(きずな) 姫星( きてぃ)」などと見ると、日夏耿之介も真っ蒼、って感じである。
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by mariastella | 2014-01-12 06:21 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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