L'art de croire             竹下節子ブログ

パトリス・ルコント『約束』、ジョン・タトゥーロ監督のコメディ『Fadinggigolo(ジゴロ見習い)』

フランスに戻ってから観た映画の感想を忘れないうちに書いておく。

フランス人監督が英語で撮影したドイツの話、
フランス人女優が出ているニューヨークが舞台のアメリカ映画、
そしてカトリーヌ・ドヌーヴの出る生粋のフランス映画の3本だ。

まず、パトリス・ルコントがステファン・ツヴァイクの『過去への旅』を脚色した『約束』。

脚色だからもう少し時代設定とか変えているのかと思ったら、舞台は第一次大戦前から後にかけてのドイツだった。第一次大戦へのアメリカの参戦理由のひとつががメキシコに巣食いつつあったドイツの脅威だったとことを思い出して、それがこういうことだったのかというのを内側からの臨場感を持って理解できたのはおまけだ。

で、主演のアラン・リックマンもレベッカ・ホールも地味と言えば地味だし、若くて貧乏だけれど頭がよく学歴のある青年が突如社会的なエリートたちの間に投げ込まれるというカルチャーショックの設定はベルトラン・タヴェルニエの新作『Quai d'Orsay ケ・ドルセイ(外務省)』を思い出す。

映画的テーマだ。

でもこの『約束』は、年配で持病のある実業家の屋敷に若い妻と一人息子と、息子の家庭教師にもなる若い男の密室的状況がほとんどで、そこに互いに惹かれあいながらその気持ちを自分にも相手にも隠すような心理戦が延々と続く。

このタイプの純愛だか、禁断なのでかえって倒錯的なのか分からないような抑制の恋愛ドラマというのは、私はすごく苦手だと思っていたし退屈するだろうと覚悟していたのだけれど、時代や場所が現実離れしている割にはサスペンスフルで、最後までドキドキして観てしまったのは、語り口の職人技に感服するほかはない。

次にウッディ・アレンが俳優としてのみ出てくるジョン・タトゥーロ監督のコメディ『Fadinggigolo(ジゴロ見習い)』。

ルコント映画の息苦しさから解放されて笑おうと思ったのだけれど、ニューヨークのユダヤ原理主義コミュニティってこんなにすごいのか、ともちろんコメディだから大げさにしているにしても、笑えない部分もあった。

未亡人が外に出る時に髪を見せてはならないというので、ヴェールや帽子をかぶるのでなくウィッグをつけることも、トルコなのでは実際そうなのだから、あり得る話だと思って異様だ。

紙の書店がたちいかなくなって店を閉めて、小遣い稼ぎに花屋の男友達に売春を斡旋する。その役を監督自身が演じていて、妙な誠実さや不器用ぶりや変身ぶりの演技に説得力がある。

ウッディ・アレンがユダヤ人だけれど原理主義者とは対極にある役で、黒人女性と結婚していて子だくさんという設定もおもしろいが、買春して3Pの行為を楽しもうとするシャロン・ストーンらの、金と力と欲望と美しさとモラルの欠如が一体となった魅力的な白人女性2人の存在も、どこかリアルな分うすら寒い、というか索漠としてくる。

年齢的にはヴァネッサと変わらないかさらに上の熟女なのに、同じ時代の同じ町に住みながら、抑圧の格差があり過ぎる。

私生活でジョン・デップと別れたばかりのヴァネッサはもちろんユダヤ人ではないのだが、彼女をはじめて見たウッディ・アレンはユダヤ人にしか見えないと感嘆したそうだ。

6人のマッチョ予備軍の息子を抱えた未亡人の美容師はウッディ・アレンの子供の頭のシラミかシラミの卵を取り除いてやる。その後でマッサージ師として「ジゴロ」を紹介されるのだ。

タトゥーロはイタリア移民のカトリック家庭の出身で、映画と同じNYブルックリン出身だそうで、モザイク社会に住む人々が原理主義的でない時にそれぞれ生存戦略をめぐらして行く様子を巧みに描いているのが楽しい。

(フランス映画については次に続く)
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by mariastella | 2014-05-27 07:26 | 映画
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