L'art de croire             竹下節子ブログ

ワールドカップとラマダン

ワールドカップの決勝トーナメントとイスラム教のラマダンが重なった。

フランスの公営放送で、ムスリムが5人いるというフランス・チームは、「旅行中のムスリムはラマダンの期間をずらしてもよいとコーランにあるのを適用するから問題がない」と言っていた。

そのフランスはナイジェリアと試合することになっていて、ナイジェリアの選手のうちムスリムはラマダンを実施するようだという。

ドイツと試合するアルジェリアに至っては全員がムスリムで、従軍司祭ならぬ従軍イマームが付き添っていてもちろんラマダン実施だと言っていた。

水も飲まないのでパフォーマンスに影響すると解説があった。

パフォーマンスもだけれど、危険ではないのだろうか。
そして、そういう極限状態にあるようなチーム、あるいはコンディションにハンディのあるようなチームと試合する側もいやな気分にならないかと思う。

決勝トーナメントに進出したアフリカのチームの中でガーナだけは貧しいけれど最も民主化が進んだ国と言われている。キリスト教がマジョリティだ。

ワールドカップのような舞台では、世界のG8とかG20とか先進国とか途上国とかのパワーバランスが全く狂ってくる。ある意味シュールだ。

サッカーはもともとヨーロッパ主導で、中南米が力をつけてきてからはヨーロッパの植民地宗主国メンタリティに対抗する意味もあって南米がFIFAから脱退しようとしたこともあったという。
1928年のオリンピックや1930年のワールドカップでウルグアイが優勝した後だ。

それでも、その後でアジアとアフリカという「第三世界」が参加するようになったので、ラテン・アメリカとヨーロッパは既得権益を持つグループとして結束するようになり、FIFAは存続した。

なんだか、移民の国アメリカで、先に移民した国のグループが後から移民してくるグループを排斥しようとしたり、自分たちの後で扉を閉めようとしたりしてきたという話を思い出す。人間の考えることはどこでもいつでも似たり寄ったりだ。

今でも、ヨーロッパと南米はFIFAの参加国の28%だが選抜国の59%を占めているという。

でも南米の名選手たちは、今ではかなり若いうちからヨーロッパのサッカーチームでプレイする。

経済力の格差で完全に選手が流出しているわけで「ラテン・アメリカは血管の切れた大陸だ」と評する人もいる。

主力選手が里帰りし、ナショナル・チームとしてワールドカップでヨーロッパのナショナル・チームを倒すのは、だからファンにとってはある種の復讐にも似た快感なのだそうだ。

そんな話を聞いていると、グローバリゼーションの世界と、経済格差のもたらすテンションやルサンチマンと、伝統や文化の差やこだわりの確執が見えてくるワールドカップの報道は興味深い。ヨーロッパとラテン・アメリカだけの時代ならラマダンの問題など出てこない。イランは一次リーグで敗退したが、もし決勝トーナメントに勝ち残っていたらどうなっただろう。

文化の差は、飲食だけではない。

ラジオで、フランスは、決勝トーナメントについていく選手の配偶者の旅費を支払うと言うのを聞いた。戦うための男性ホルモンを調整するにはセックスが必要だからだという。
週刊誌によると、デシャン監督は「いつどのように、何度かによる」と言うそうだし、「リラックスするためにはいい、ただし徹夜はダメ」、と医者がコメントとし、ブラジルの監督も「ノーマルなものならOK」と条件を付け、アメリカの監督は配偶者たちがホテルに来るのもOK、みんなでバーベキューもしている、と言うそうだ。ベルギーの監督は準決勝までは家族に会うのは禁止、メキシコの監督は、40日の禁欲ができないでどうする、と言い、イタリアの監督は「予選のうちは大目に見るがブラジルに来てからははダメ」、ボスニアの監督は「うちでは選手が自分で処理」と4月に言ったんだそうだ。

こんな話を聞いていると、橋下知事の従軍慰安婦の話などを思い出してしまう。

私の身近なブラジル人というと、ピアノの生徒で母親がフランス人で父親がブラジルの映画監督である15歳の少年が一人いるだけなので、彼の家はワールドカップで盛り上がっているかと聞いてみたら、

「うちは誰もテレビも見ない」

と言われた。父親は全く関心がないし、自分もスマートフォンでゲームをしているだけだ、と。
別の音楽家に聞いたら、サッカーは格闘技で野蛮だと嫌悪していた。
ブラジルとチリの試合がPK戦になった時、TV画面の前に聖母マリア像を置いて祈っていた女性のサポーターがいたと報道されたのが印象的だ。

いろんな人が、同じ時間を、さまざまに、生きている。
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by mariastella | 2014-06-29 08:52 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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