L'art de croire             竹下節子ブログ

ワールドカップとローマ法王

今日がサッカーのワールドカップの決勝。

観戦自体に興味がないのだけれど、フランスで見かけるワールドカップをめぐる言説についてもっと何か書いてくれと頼まれたので少しだけ。

ドイツ対アルゼンチンの決勝が決まってから少し笑えたのは、新聞などに時々、ローマ教皇ベネディクト16世とフランシスコ教皇が肩を抱き合っている写真とともに「恐れもなく憎悪もなく」なんていうキャプションなどが見られたことだ。

現フフランシスコ教皇がアルゼンチン人で大司教時代に地元のサッカーのファンクラブに入っていたというエピソードは有名だが、ベネディクト16世がドイツ人だという組み合わせはすっかり忘れていた。

今回あっさり一時リーグで敗退したイタリアのヴァティカンで、史上初めてのドイツ人教皇と史上初めてのアルゼンチン教皇がこれも史上はじめて二人の教皇が共存するというめずらしい状況で、この二国が決勝を戦うなんて確かにおもしろいめぐりあわせだ。

そういえばベネディクト16世はバイエルン出身で、今回の代表が多く属しているクラブが地元だなあ。

ドイツはともかく、アルゼンチンのサポーターはブラジルと同じく試合に「神の加護」を熱心に祈ってそうな感じだから、「教皇さま、必勝祈願を頼みますよ」と言ってる人もいるのかもしれない。

コスタリカもカトリックが国教になっているくらいだから、祈る神は同じで、アルゼンチンが準決勝でPK戦に勝ったのは「教皇の祈りが効いたかも」とジョークをとばす人もいる。

もっとも、例えばフランスの試合の時、エリゼ宮でTV観戦して歓声をあげているオランド大統領とか、スタジアムに赴いて応援するメルケル首相などの様子がニュースで流れるのと違って、フランシスコ教皇はアルゼンチンの試合をスルーしているという報道を一度だけ耳にした。そりゃそうだろうな、と思った。

普通の国の首長なら、ほんとうは関心がなくても自国を応援する必要が生じるだろうし、それは経済効果や政治効果からしても理解できるけれど、ローマ教皇はヴァティカン市国の首長で全カトリックの首長でもあるから、「出身国」をひいきになんてしていられない。

パレスティナ情勢だけを見ても、他に必死に祈る案件はたくさんある。

もう一つ面白いと思ったのはある若い日本人が、

「フランスはドイツに勝ってほしいよね。そしたら自分たちは準優勝の実力があると思えるから」

と言ったので、

「チッ、チッ、チッ、それは日本人的なちょっと込み入った計算の発想だよ、こういう戦争みたいなメンタリティが支配する場では、自分たちを負かした相手をやっつけてくれ、仇をうってくれ、という単純な復讐の心理が勝つんだよ、フランスを降伏させたドイツを連合軍にたたいてほしい、みたいなやつだよ」

などと答えていたのだが、そしてフランス人にはそういう人も少なくないのだが…

実際は、

例えばブラジルのサポーターは、ブラジルを惨敗させたドイツを、同じ南米の名誉にかけてもアルゼンチンに叩きのめしてもらって復讐してほしい、などとは思わずに、

自分たちに圧勝したドイツにアルゼンチンが勝つなら自分たちはアルゼンチンよりはるかに下ということになるから嫌、

アルゼンチンがブラジルでカップを手にして勝利に酔う姿を見るのは耐えられない、

などで圧倒的にドイツを応援しているらしい。

アルゼンチンのサポーターたちもブラジル人サポータをからかったり挑発したりしているらしいから、近親憎悪みたいなものの方が強く働くのかもしれない。経済関係、外交関係は良好というのだから、アメリカ杯での遺恨(アルゼンチンの勝率が圧倒的)などスポーツ限定なのかもしれないけれど。

南ア大会では南アが敗退してからは、同じアフリカで残った唯一のガーナチームを応援しましょう、と言われたそうだし、日韓共同主催大会では日本が敗退した後は残った韓国を応援しよう、と言われたそうだ。

その理屈ではフランスは、「同じヨーロッパのドイツを応援しましょう」ということになってもよさそうだ。

しかし建前と人々の本音はまた別物だろう。

フランスの試合ではTVを見ていなくてもゴールが決まるとあちこちで歓声が上がるので試合の様子が分かるけれど、準決勝や三位決定戦ではまったく分からなかった。

今日の決勝はどうなるだろう。

16年前、パリのマジック・ショップでマジシャンたちと食事してテーブル・マジックを次々と披露してもらっていた時に、町の喧騒でフランスが準決勝でクロアチアに勝ったことを知ったのを思い出した。今だったらTVを見なくても、スマホなんかで経緯を確認する人が絶対いただろうなと思う。
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by mariastella | 2014-07-13 19:06 | 雑感
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