L'art de croire             竹下節子ブログ

アンドレ・テシネ『愛され過ぎた男』L'Homme qu'on aimait trop  André Téchiné

アンドレ・テシネ『愛され過ぎた男』L'Homme qu'on aimait trop  André Téchiné

この映画は今年のカンヌで特別上映されたものだけれど、観るかどうか迷っていた。

ベースになっている30年来の事件が最近も話題になったところで、中心人物のアニュレは「冤罪が晴れる」というのとは別の意味で訴訟世界の「奇跡の男」と呼ばれている。
被害者の遺体が発見されないままで殺人犯として告発されたり、無罪放免になったり、再審されて20年の懲役になったり、息子や愛人に告発されなおしたり、ヨーロッパ法廷がフランスを断罪したり、今年になるとマルセイユの刑務所から出た男が、服役中知り合った囚人から「自分が真犯人だ」と明かされた、と証言したり…。

関係者は、ニースの豪華カジノの女性パトロンとその娘、弁護士、「賭け事のナポレオン」と呼ばれたマフィアのボスという派手な人物たちだ。

で、この手の話に興味をもって入り込めるかどうかよく分からなかったのだけれど、予告編でカトリーヌ・ドヌーヴの姿になんとなく驚いたので興味を持った。

結果は、「一見の価値あり」というところ。

ドヌーヴの演じるカジノの女主人は事件当時の1976-77年にかけては50代半ばであったはずなのだけれど、現在70歳のドヌーヴがむしろ老け役をしているのではないか、というような貫禄ぶりなのだ。

創業者の未亡人ルネが社長に納まって会社を取り仕切る設定はなんだか『Potiche(しあわせの雨傘)』の役どころを思わせて、カッコいい展開になるのかと思うほどだが、ここではすべて裏目に出る。
この時の彼女のファッションが完璧にセットされたプラチナ・ブランドの髪に暖色系のきらきら衣装なのだが、それがかえって体の重さを感じさせて老けて見える。

対して、20代終わり、5年の結婚生活が破綻してアフリカから母のところに出戻ってきた娘アニエスは、暗い色の長い髪を垂らしたままで化粧気がなくて顔色が悪い。服もいつも黒いカジュアルなもの。アデル・エネルが名演で、ドヌーヴとの対照がすごい。

ルネの顧問弁護士でルネの命令でいつも三つ揃いのスーツを着ているモーリス・アニュレ。

これがギョーム・カネで、この人がこんなに名優だとは知らなかった。
女たらしのこのアニュレとアウトドア派のアニエスははじめはまったく釣り合っていないのだけれど、アニュレは巧妙に10歳年下の娘の心をとらえてしまう。

まあいろいろあるのだけれど、このアニュレが、ルネに解雇されてからアニエスをそそのかしてカジノをフラトーニというマフィアのボスに売ってしまおうとする。
アニエスは父から受け継いだ株をもっているからだ。
その時フラトーニはフリーメイスンだというコメントが映画の中であった。
資料によるとアニュレもフリーメイスンだというから、彼らはロッジで知り合ったのだろうか。スイス、モナコ、イタリア、ニースあたりの銀行やカジノの流動性とフリーメイスンのロッジは関係があるのかもしれない。

アニュレに陥落されてからのアニエスは服の色が急に明るくなる。最後の重役会で母を裏切るときも明るい服で髪は後ろにまとめられていて、ルネの方が暗めの服になっている。

で、その後アニエスが行方不明(1977秋)になり、ルネはアニュレが娘を殺したと確信し、すべてを投げうって(映画ではスルーされているが実は息子もいてルネを支える)、警察の無能力を訴えたり、マフィアを告発したりしながら、20年後、30年後まで、執拗にアニュレを追い詰めるのだ。アニュレが「弁護士」で「フリーメイスン」で「人権擁護連盟のメンバー」であったことによって守られてきた事実は否めない。

フラトーニもこの事件以来告発されたがイタリアやスイスに逃げた後ですでに世を去っている。

ところがアニュレは、裁判所から出頭命令を受ける度に、外国からでも律儀に戻ってきて堂々と容疑を否定する。

ここで、設定として、70代半ばになったルネや80代半ばのルネが登場する。
アニュレの方も60代半ばや70代半ばだ。
アニュレは自然体で悪びれない。
ルネの方は、化粧気がなくなり、黒い服になり、髪は暗いネズミ色になっている。
このドヌーヴがすごい。

実際のルネはきっちりセットされた白髪がむしろ明るい。

これが2007年86歳のルネ


これがアニュレ。


これが2014年あらたな訴訟のアニュレ76歳。


若いころはこんな感じ


なんというか、この関係者たちのリアルの姿を見ていると、もうすごくキャラが立っているというか、特別な人たちだと思う。
アニュレが一種の「人たらし」として堂々としているのもすごいし、絶対にあきらめない執念のルネさんもすごい。

これらのリアルの人たちの濃さに負けずに命を吹き込んだ俳優たちの技量は大したものだし、アニエス役のアデル・エネルもすごい迫力だ。

それに加えて、1970年代のニースの風景やカジノや海岸も懐かしい。
私が最初にニースに行ったのは1977年春だったから、その時、この登場人物たちも皆いたわけだ。

それに今となっては、こういう少し昔のシーンを見るといつも思うのは、ああ、あのころは携帯がなかったんだなあ、ということだ。携帯や携帯メールがあればまったく違う展開になっていた事件はたくさんあるだろう。

テシネには他にも実際の事件をモデルにした作品があるがなんだかそれも見たくなった。
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by mariastella | 2014-08-18 00:23 | 映画
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