L'art de croire             竹下節子ブログ

スコットランド独立派が敗れた後で

「スコットランド独立投票が独立否定派の勝利に終わったことについてのコメントは?」
と聞かれた。確かにこれまで何度も触れてきたので、ここで一応まとめの記事を書いておく。

まとめはもちろん宗教ネタで。

9/14の日曜、エディンバラの聖メアリー大聖堂のミサは人が入りきれなかった。 

スコットランド国教会首長のJohn Chalmersの説教はBBCでも生中継され、彼は「兄弟愛のうちに投票するように」、「投票がどんな結果になろうとも、共に未来のために働かなければならない」などと言った。
そして、投票後の21日の日曜のミサに独立派のアリステア・ダーリングと反対のアレックス・サマンドの両方を招いて「和解のミサ」を捧げると言った。

毎日曜に「国教会」の首長がこうやって、建設的な呼びかけをしてみんなが耳を傾けるのってすごいなあ、と思った。

そもそも、スコットランド国教会というのがちゃんとあることも、日本人には知られていないかもしれない。

イングランド国教会というのは例のヘンリー八世がローマ法王のもとから離れて自分が国教会の首長になって以来の「聖公会」というやつだが、その時点ではスコットランドは連合王国に入っていない。
「聖公会」は教義や典礼の上での「改革」を求めたわけではなかったからその点でローマ・カトリックと近い。

一方スコットランド国教会の方は改革派の「長老派」由来なので、よりプロテスタント的だ(ここから分かれた「スコットランド聖公会」というのもあってスコットランド国教会の32%、ローマ・カトリックの16%に次ぐ)。

で、連合王国になってからどうなったかというと、簡単に言うと、

英国王はイングランド国教会の首長だがスコットランド国教会では一信者。
スコットランドの別荘に滞在する時は地元の教会のミサに出席する。
ただし長老会議に送る使節の任命権がある。
アイルランドやウェールズの教会では特別の権利がない。

スコットランド国教会の首長は前述のジョン・チャーマーズで、連合王国的にはイングランド聖公会トップのカンタベリー大司教が上に来るのだが建前でしかない。

建前と言えば、イングランド聖公会の首長が連合王国の君主(今はエリザベス二世)だといっても、それは歴史的な建前で、実際は、司教などは司教会議がリストを提出したものを首相が認可し、君主はサインだけすることになっている。女王は名誉首長というところだ。

もちろん他宗教も無神論もOKで共同体棲み分けもOKの国だから、こういう「政教分離」ぶりも曖昧である。

これが日本なら、国家神道の政教一致が「近代化」して「政教分離」になったのだ、だから天皇は「象徴」に、ときっちり政教分離を遂行したわけだから、日本のような国からイギリスを見ると、そんなのでいいのか、と思ってしまう。

第一、政教一致や政教分離が意味を持つのはやはり「一神教」的メンタリティの文化圏だ。

明治以来、いくら天皇を現人神だとして「国家神道」の一神教化が推進されてきても、そこはもともと「八百万神」の国だから、「氏神」や「先祖神」を組織しきれなかった。だから戦後に「政教分離」と言われても、文化的にはインパクトはない。

民主国家が健全に機能するには、「目に見える政教分離」が効果的で、目に見えると言うのは、政治的決定権のない伝統有力宗教の首長の顔が見えているということだ。

フランスは政教分離原理主義みたいな国のひとつだが、伝統有力宗教の首長であるローマ法王はフランスにいないから、分離されているのは顔のない「神」であって、実はうまくバランスがとれていない。

アメリカも顔のない「神」で、しかも顔がないものだから「神」が政治的言説にも利用されまくっている。

ロシアなら何となく、「大統領」対「ロシア正教大主教」というのが見えるし、イタリアもヴァティカンがしっかり身中にいるので、「大統領」対「ローマ法王」というのは見える。

イランのように政教一致の国はさておいて、サウジアラビアはもちろん王がイスラムやメッカの保護者となっているけれど、実は「王族」対「宗教(ワッハーブ宗)」が互いを牽制しているふしがある。サウド王家は建国の英雄アブドゥルアジーズを偶像視するプロパガンダに余念がないのだ。

話を戻して、スコットランドの場合、「無宗教」を自認する人もいればシーク教、仏教、イスラム教など移民を中心のマイナーな多宗教が混在しているが、エリザベス二世(夫はエディンバラ公の称号を持つ)も人気があるし、スコットランド国教会のチャーマーズ長老も信頼されていて、そのへんのユルい感じが、かえって、成熟した民主主義国家のオトナ感がある。

まあ今回の結果は、EUやNATOとの関係から言っても、つまり経済的にも安全保障的にも不安要素が多すぎたからほっとしている人が多かっただろう。
これでますます自治権が拡大すると言っているからある程度は目的を果たしたと言えるかもしれない。

ヨーロッパではカタルーニャのスペインからの独立が、国民投票ができない現状でかなり熱気を帯びている。
その意味でも、スコットランドのこれからも注目され続けるだろう。
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by mariastella | 2014-09-22 01:15 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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