L'art de croire             竹下節子ブログ

ビルドゥングスロマンとしての『イン・ザ・ヒーロー』と『マエストロ』

日本とフランスを往復する便で日本映画とアメリカ映画を観た。

アメリカ映画は劇場版では絶対見ない『ゴジラ』。

日本が舞台になっているので好奇心もわいてきたので、飽きない。でも往きの飛行機で観た時に、ラストの手前で着陸してしまった。クライマックスが見られなかったわけだ。帰りの飛行機に乗ったらすぐに続きを見ようと決心した。

で、帰りの飛行機の機内で真っ先に『ゴジラ』を選択したのだけれど…

なんだか続きがもうどうでもよくなった。

今までにも、片道の途中で時間切れになった映画の続きを帰りの機内かまた何ヵ月か後に乗った機内で観なおしたことがある。

はっきり言って、「名作」は、その度に感動して、もう一度最初から観ても飽きない。

ところが『ゴジラ』は見ている時はそれなりにドキドキしてどうなるのかが気になったのに、一度中断すると関心がぴたりと途切れた。変なたとえだが、ダイエット中に小腹がすいてつい冷蔵庫を開けてしまった時に、そのままじっと10までゆっくり数えれば誘惑が消える、という話を思い出した。「おいしいところ」でいったん中断すれば、そのままどうでもよくなる、という映画があるということだ。そんな映画を金と時間をかけてみるのはやっぱりやめて正解なんだなあと思った。

それでも、普段は全くアクセスしない日本映画は2本見てしまった。恋愛ものとかは興味がないので、『テルマエ・ロマエ2』と『イン・ザ・ヒーロー』を観た。

『テルマエ・ロマエ』の最初のものは新宿の映画館の大画面で見たのでそれなりに笑えたけれど機内の小画面で見ると迫力がない分つまらなかった。原作のコミックの方は何冊読んでも全然飽きなかったのに、映画は2作目となると、日本人俳優のローマ人役と「平たい顔」人種役の使い分けなど、前は新鮮で面白かったものが飽きてきた。

それに比べると、アクション映画なんて途中でギブアップするかもと思った『イン・ザ・ヒーロー』は最後までドキドキしながら見ることができた。

この手の映画なら絶対にハッピー・エンドだとは信じながら、何度も、もうダメというシーンの連続で、しっかりとあちこちに感情移入してしまった。

めちゃくちゃなストーリーなのだけれど、土台となるスーツ・アクターとかスタントマンの世界そのものは現実にあるのに、信じられないような特殊な世界なので、そのインパクトが強いこと、実際にスーツ・アクターの経験があるという主人公の唐沢寿明が魅力的なことで、表現に厚みがある。

『ボディビルダー』
と同じで、演技ではなかなかできない本物のアクションのプロたちがたくさん出ているリアルさ、迫力が半端ではない。

そこに、若い俳優がプロとして目覚めていくビルドゥングスロマンのようなストーリーが加わる。その配し方もうまい。

若い俳優のビルドゥングスロマン風の成長物語ということで、今年のフランス映画『マエストロ』を思い出した。

『マエストロ』はマエストロである老映画監督を演じるのが私の好きな老俳優ミカエル・ロンダルなので観に行ったのだが、あのように特殊な話を追いながら今一つ成功していなかった。

老監督との出会いによって成長していく若い俳優をやるのが若い時のトム・クルーズのような明るい感じのピオ・マルメだ。

この話は実は実話が下敷きで、エリック・ロメールの遺作となった『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜 』の撮影風景を描いている。

ロメールの古いタイプの撮影方法といい、時代錯誤な風景やテーマといい、まるで別世界にタイム・スリップしたような独特の体験を映画の中の「映画出演者」たちと観客が共有する。この映画の数年後にロメールが亡くなり、その前に、出演者のジョスラン・キヴランがスポーツカーの事故で亡くなった。で、スイスの女性監督がこの二人に捧げるオマージュとして撮ったのがこの作品だ。

でもロンダルのイメージがロメールと合わない気がするし、作品の持つロメール風のエレガンスも何となく歯がゆい感じだった。でもロメールのすべての作品もそうだが、この手の映画は「フランス語」が分からないと意味の大半が抜け落ちるという気がする。

『ゴジラ』の大衆映画ぶりが、少し間を置くと気の抜けたソーダ水のようになったことで如実になったのだが、その対極にあるようなロメールの映画を素材にしてロンダルのような名優を使いながら、「若者がベテランと接しているうちに成長する」というテーマにおいては『イン・ザ・ヒーロー』の方がよくできていると思ったのはどうしてだろうか。
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by mariastella | 2014-11-11 01:07 | 映画
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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