L'art de croire             竹下節子ブログ

市役所葬儀の法案

市民葬という法案がついに出てきた。

フランスは、「政教分離のチャンピオン」と自認している国だ。

それはただ、国が特定宗教に肩入れしないなどというものではなく、フランス革命まで国民の冠婚葬祭から教育、福祉までの生活すべてを仕切っていたカトリック教会のやっていたことをすべて国や市役所がする、ということと同義だった。

子供に代父、代母を登録する洗礼も、頼めば市役所で無料で市民洗礼をやってくれる。

教会での結婚式に代わって、すべての市役所には結婚式ホールがあって、市長や助役が結婚式を司式する。指輪交換も誓いの言葉もある。

その結婚証明書をもっていけば教会ではまた別に教会の結婚式を挙げることが出来るが逆のことはできない。

教育や医療などの多くが無料に近いことも社会活動型修道会のやってきたことを踏襲しているからだ。

ところが、葬儀だけはこのシステムが機能していなかった。

もちろん金のない人も公的共同墓地に葬られることはできても、葬儀というセレモニー自体は各自が各自の宗教、または無宗教で行わねばならない。

その点は、金がなくても、小教区の信者として教会に出入りしていれば、ちゃんと葬儀ミサをしてもらえる。そのせいか年取ってから突然教会に戻る人もいる。

ペール・ラシェーズのような公営墓地には、キリスト教のチャペル風ではあるが十字架などのシンボルがなくて、どんな宗教のセレモニーでもできるようになっている建物がある。無宗教葬儀をオーガナイズしてもいいし、仏教の僧侶を呼んできてお経をとなえてもらってもいい。

それが今回の法案では各市役所に葬儀用ホール(結婚式ホールを兼用してもいいらしい)を設け、市長などしかるべき人物が無宗教で葬儀を司式するようにできることになっている。結婚式と同様、無料である。

今はフランスでも友達葬だとか無宗教の葬儀をやる人も少なくないが、そのためには誰かが金を払ってオーガナイズしなくてはならない。

日本でも今は斎場があって、どこの宗派のお坊さんでも呼んでくれるわけだけれど、もちろんサービスは有料だ。

結婚式を見てみよう。

日本では結婚届にしかるべきハンコを押して市役所の窓口に届けるのが「籍を入れる」という正式の手続きで、後のセレモニーは、すべて個人がオーガナイズするものだ。

「結婚式」でさえ、仏式、神式、信者でなくともチャペルでなどほぼコスプレに近いような演出でもOKであり、法律とは関係がない。

法律的に籍を入れていなくとも「結婚式」で誓いの言葉をかわすのも自由だ。

披露宴となるとなおさら、社会的なパフォーマンスであって、消費主義経済の中では莫大な金がかかることも少なくない。

そういう「金のかかる結婚式」と「市役所の窓口に書類を提出」との差はあまりにも大きい。

フランスなら、一銭も使わずに、市役所で一番立派な結婚式ホールで、友人や親戚にたくさん出席してもらって「式」を挙げてもらうことが可能なのだ。

そう、冠婚葬祭という人生の節目はどんな共同体でも通過儀礼の一種だから、人は「お披露目」としての何等かのセレモニーを必要とするのだろう。

「結婚」には、二人の成人が家庭をつくって共同生活をするというコンセンサスがあるけれど、死んだ人を「送り出す」とか残された人を慰めるというセレモニーの方は宗教によって違う「死後の世界」の考え方によって微妙に変わるから、今まで国が介入しなかったのだ。

でも、無料、無宗教の「市役所葬儀」法案を導入するというのは、フランス風政教分離のロジックの帰結点であり、考えれば当然のことだと思う。今までなかったのが不思議なくらいだ。

まあ、誕生や結婚は心の準備をする暇があるけれど、「死」というのは時として突然訪れるし、残された者のショックが大きくて、とりあえず宗教にすがって伝統的にやる、というリアクションがほとんどだったので、市役所には「死亡届」だけですましていたのだろう。

でもこの法案が通ったら、結婚と同じようにまず市役所での葬儀セレモニーを済ませなくては教会の葬儀もできないのだろうか。それとも「オプション」としてあるのだろうか。まだまだこれから検討されるのかもしれない。

まあ個人的には自分自身の亡き骸など、密葬でも直葬でも何でもいいと思うし、簡単なものほどいい。

でも、「残される側」としては、飼い猫が死んでも、写真を飾って、花を飾って、蝋燭を灯して在りし日を偲び、どうか安らかにと祈る、というプチセレモニーなしには次の一歩が踏み出せない。

人間的な、とても人間的な「喪」というものをどのように「自由・平等・兄弟愛」の共和国理念に取り入れるのか、注目したい法案だ。
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by mariastella | 2014-12-17 00:58 | フランス
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