年の瀬。
急に冷え込んでいる。
田中龍作ジャーナルで渋谷区が野宿者を公園から締め出したという記事を見てショックを受けた。
私はフランスに住んでいて比較文化的なことを書いているから、ときとして「おフランス礼賛」トーンになるのではないかと誤解されるのだけれど、「フランス文化人」は中華思想でなく自虐好きだし、私も別にフランスが全体的に日本よりましだと思っているわけではない。
でも、ホームレス対応の差にはショックだ。
フランスでもともとの例えばカトリック修道会系の福祉事業の発達しているのは別としても、少なくとも、1954年の厳寒のパリでアベ・ピエールが発した連帯の呼びかけはいまだに有効で、政権が代わっても、これだけはアイデンティティになっている部分がある。
今年も寒波が来て以来、パリ市内の体育館が3週間単位でローテーションを組んでホームレスに簡易ベッドを並べ、暖かい食事や医療を提供し始めた。日本で公立の体育館が避難所になるというと台風や地震などの災害の場合だけの印象があるけれど、この季節のパリのホームレス避難所として体育館は大活躍だ。受け入れは男女別または家族用になっている。
パリ市のいくつかの区役所(1,3,4,11,15区など)もホームレス収容の場所を提供しているし、ホームレスでなくても一般の生活困窮者のために暖かい食事を提供する場所はたくさん稼働している。
SOSの無料の115番というのがあって、休みなしの24時間対応のそこに電話すると、心理的、身体的、社会的困難に応じてしかるべき場所に誘導してくれる。
昔は夜露だけをしのぐ場所の提供が多かったが、今は昼間も残れる避難所が増え、20くらいのNPOが七つの食堂で1000人以上分の夕食を炊き出している。
パリ市社会活動センター(CASVP)では現役を引退したボランティアの医師が無料診察を常時引き受けている。
単に寝食を提供するだけでなく社会復帰のオリエンテーションや心理セラピストによるケアもある。
それでも社会格差は進み失業者やホームレスの数は増え続けているのだけれども、少なくともそれが「公的な問題である」という意識はある。
プロテスタント国ほどには個人による寄付文化は発達していないのだけれど、その代わり、たとえ財政赤字があってもともかく「国や公共団体が対応すべきだ」というコンセンサスがあるのだ。
フランスというと、出生率が回復して久しいので、今や半数以上に上る婚外子の権利保護はもちろん女性が子供を産み育てやすい環境整備や公的な援助の充実などばかりが「お手本」のように日本でも話題になるけれど、妊婦や乳幼児、乳幼児を育てる人という「社会的」な競争力や戦力のない弱者を守る政策と失業や心身の故障や老いなどで安全な生活基盤を失う弱者を守る政策は本来同じルーツを持っているものだと思う。
ホームレスの炊き出しが行われていた公園を次々と閉鎖するようなメンタリティで「女性が輝く社会」だとか「少子化に歯止めを」だとか言っても効果がないのは自明ではないだろうか。