L'art de croire             竹下節子ブログ

悪の慣性

今年一番脅威をおぼえた出来事はやはり「イスラム国」の侵攻だ。

ある軍事勢力が勝手に他の主権国に乗り込んできて力で制圧して法を制定して税金を取り立てて「国」を名乗ってしまうようなことが今の時代に起こってしまうとは想像もしなかった。

国際法上はもちろんどこからも「国家」認定されていないわけだけれど、思えばほんの100年位前までは帝国主義国家がやりたい放題に力で国境線を描き変えていたのだということを今更ながら思い出す。

中東問題の専門家がラジオで語っていたけれど、イスラム過激派を名乗るテロリズムはわずか10数年でアルカイダ・モデルがイスラム国モデルに取って代わられた。

アルカイダ・モデルは、上意下達で、たとえばビン・ラディンがテロの標的を決めて通達し、航空券を支給するなど、ある意味で欧米の諜報組織の鏡のような組織だったので、比較的追跡しやすかったという。
クラシックな秘密組織のネットワークだったからだ。

けれどもそのような「上意下達」のモデルと違って「イスラム国」は、facebook、 twitter、 youtubeなどを駆使して水平に顕在しながら情報を拡散して勧誘、洗脳するシステムになっている。
完全にポスト・モダン的であり、近代の「秘密」カルチャーよりは顔が見える分特定しやすいのだけれど、これまでの「秘密組織が秘密組織を追跡する」というノウハウが役に立たなくなっている。

しかもそういうヴァーチャルなプロパガンダと実際に支配するテリトリーを創ってしまうという実効が両立している。

思えば2011年初頭から広がった「アラブの春」もそういうヴァーチャルなネットワークが政教分離や表現の自由、グローバリゼーションを訴えて新しい世代を動員して展開したものだった。

それなのに、今、何とかその成果をとどめているのはチュニジアくらいなもので、エジプトの「革命」をになった人の多くは獄中にある始末だ。シリア、イラク、リビア、イエメンなど、暴力的状況は深刻になるばかりだ。

なぜだろう。

「自由・平等・共生」の普遍主義の運動は、せっかく新しい情報ツールによって広がったというのに、それに見合った「新しい国家」を組織する力はなかった。

イスラム国のような恐怖支配の原理主義テロリストの疑似国家はあれよあれよという間に組織されたのに。

これは今の新自由主義経済の貧富の差の拡大と同じで、一種の「覇権主義」の方が、重力の助けを得て弾みがつくからなのかもしれない。

「悪貨は良貨を駆逐する」というやつで、「悪」の方が「重い」のだ。

ここでの「悪」とは、ある種の人間、そのグループが、他の人間や他のグループの生殺与奪の権を持つという意味だ。すべての人がそれぞれ与えられた命や環境を安全に全うするという自然権を、「強い者」が力で侵すことだと言ってもいい。

それに対して、弱い者、貧しい者、搾取されていた者、差別されていた者らが連帯して立ち上がるとか、「自然権」の回復を求めるとかの運動は、「悪の慣性」に押し戻される。

しかも、最初は弱者のために戦っていたはずの人間がいったん権力を持つと既得権を守ったり拡大したりして他者の権利を侵害する側に回ってしまうように、この「悪の慣性」はフラクタルのように再生する。

「弱者を守る」という「強さ」は、その慣性に抵抗するために、「弱者を踏みつぶす」という強さよりもさらに強くなければ維持できない。

善く生きることは悪く生きることよりも難しい。

怠惰や利便や飽食を断って「生活習慣病」から抜け出すことすら難しいのだ。

いや、善く生きたり悪く生きたりという選択の余地さえない状況の人だっている。

鬱のどん底にいる人は浮き上がる気力もなければ意志すらない。自然権を完全に奪われている人や、痛みや恐怖によって支配されている人もそうだ。

それを思うと、まだそこまで追い込まれていない幸運な人は、やはり困難に立ち向かう義務があるような気がする。

と、これは自分に言い聞かせているのだけれど。

「イスラム国」の恐怖支配も、それに対する欧米の力の制裁も、安易な「生活慣性」に流される自分と完全に無縁なものなどとは、とても、思えない。
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by mariastella | 2014-12-31 00:17 | 雑感
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