フランスのテロの続き
人質事件(これを書いている時点では同時発生している人質事件は解決していない)のテレビ中継や先日のシャルリー・エブドに関する分析だのオピニオンだのを追いかけるのにかまけていてメールに返事を出さなかったら、複数の知人たちから「大丈夫ですか」と心配の声をかけてもらったので、ブログを更新しておく。
今回のテロは今の「イスラム国」型でなくアルカイダ系だとは言うけれど、その方法などはやはり1995年のパリのテロや2001年のNYなどとはもう隔世の感がある。実は、個人的な心配という点では、メトロで不審な荷物があれば爆発物ではないかと恐れた頃よりは不安が少ない。2012年のトゥールーズも、今回も、軍人、警官、ジャーナリスト、ユダヤ人など、攻撃目標が決まっているようだからだ。 「フランスの9・11」ということで、9・11との比較も多い。 今回は、ツイッターなどで、「よくやった」とテロリストを称賛するような書き込みも少数派とはいえ上がっていて、それも取り締まれと息巻く人も多い。イスラム過激派に与するようなものだけではない。 シャルリー・エブドは68年5月革命の流れをひく「インテリ=左翼= 無神論」系の過激派なので、例えば保守派大統領やローマ教皇などはムハンマドなどよりはるかに激しく揶揄され、笑いものにされ続けてきた歴史がある。 そのことで名誉棄損を訴えた党派ももちろんあるし、それを恨みに思っていた人たちが、過激派だから過激派に報復された、挑発しすぎた、自業自得だ、というような論評を小さな声でしたり、匿名でツィートしたりしているわけだ。 同じくカリカチュアを多用する風刺新聞でも「カナール・アンシェネ」の方が穏便で、私はシャルリーもたまに読むが、確かに下品で絵が汚いと感じることが多かった。 それでも、主力を根こそぎ奪われたシャルリーを存続させようと、翌日にはもう35の自治体が年間購読を申し込んだそうだし、人々は、「もしあなたがシャルリーを読んだことがなくても、嫌いでも、年間購読を申し込んでください、なぜならこれはフランスの言論の自由、すなわち共和国の理念に仕掛けられた戦争なのだから、シャルリーを救うことはレジスタンスなのです」と言い合っている。 これがフランス的だ。 9・11のブッシュもすぐにこれは戦争だと言って戦線布告したが、戦争だと言うとアフガニスタン空爆のような攻撃にすぐ訴えるアメリカとちがってフランスは戦争というと「レジスタンス」というリアクションが伝統になっているように見える。 確かに、国が命じる戦闘よりも一人一人に訴えるレジスタンスの方が長い目で見るとよい結果をもたらす。 今回の風刺画家の死で、風刺画家についてのドキュメンタリー番組も放送されたが、それによると、アメリカでは、9・11の後、ブッシュの「十字軍」発言の後でも、風刺画家たちはかなり自粛を要求されたようだ。彼らは、もともとアメリカにはそのピューリタンの伝統や、アングロサクソンのメンタリティのせいで、度を超えた風刺がなかなか出にくかったのだと言っていた。 それに反テロリズムの「挙国一致」体制を要求されればブッシュを笑い飛ばしたり政府を批判したりすることにはかなりのヴェールが掛けられたと言うのが理解できる。 それに対してフランスはもともとローマ・カトリックと関わる旧体制を革命で打倒して共和国を打ち立てたというアイデンティティがあるので風刺画やジョークは過激になることが可能だ。もちろんヘイト・スピーチのようなものはとりしまられるわけで、シャルリーも、自分たちは宗教や宗教者が政治にかかわる時にだけ批判しているのだ、と言っていた。カトリックに関しては宗教そのものも揶揄されるが、それはフランス文化の一要素だといってもいいだろう。 後、フランスらしいと思うのは、全国一斉に、例えば高校生たちのSMSなどでの暴言に対して、リセの哲学の教師が緊急にこの問題について生徒と話し合ったり、小学校低学年の生徒にも、何が危機にさらされているのか ? と尋ねて「言論の自由」と答えさせたりしているところだ。日本語では「言論の自由」というと漢語が二つ並んで難しいけれどフランス語なら子供にも分かる言葉なのでそれは少しうらやましい。 ユーモアの自由、笑う自由が侵されたこと、ジャーナリズムが攻撃されたことでメディアは猛烈に憤り反発しているのだが、他のカリカチュア作家たちやユーモリストたちがいっせいに、笑いをとりながら立ち上がるのも今回の特徴である。国民的漫画アステリックスの作家も引退しているにもかかわらず、特別にイラストを提供した。 表現者に表現をうながすテロとなった。
by mariastella
| 2015-01-10 01:10
| フランス
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