L'art de croire             竹下節子ブログ

パリのテロ事件について  その6

日曜のフランス全土で500ヶ所4百万人とも言われるデモ行進が終わった夜、ラジオ・フランスのホールで特別スペクタクルがあったのが公営放送で中継されたのを視聴してしまった。

大規模行進の終わりはたいていチンピラが店のウィンドウを壊すなどの悪い終わり方をするのがこの国の常なのだけれど、昨日はさすがに群衆の「正義オーラ」に気おされたのか、すべて平和裏に収束した。

で、夜の特別スペクタクルの方は、準備に24時間しかなかったというのに、フランスらしさが全開だった。

司会のナギはフランスで一番人気の司会者だけれどこの日自分で言ったようにエジプト生まれ(父がエジプト‐ギリシャ人、母がフランス‐イタリア人)で、フランス型の多様性にぴったりだ。

なにしろシャルリー・エブドの追悼だから、お笑い芸人たちがたっぷり毒のある風刺を繰り広げるし、カリカチュア作家たちもその場で何枚もデッサンを描いてはその都度披露された。

公序良俗に反する言葉や絵が全開で、政治的公正なんてまったくなし。

平常時ならカットされたり自粛するようなフレーズが自由に飛び交ったりする。

なかなか不思議な光景だ

。普通なら、こういう「非常時」で追悼番組だからこそ、みんなが偽善的に神妙にしてもいいのだけれど逆なのだから。

歌や音楽もたくさんあってユダヤ人の人気歌手パトリック・ブリュエルも歌ったし、シャルリーのために特別に創られた曲もある。ミッシェル・ルグランのピアノでナタリー・ドゥセがデュエットした。

カトリックの司祭に扮したコメディアンが金の計算ばかり言って

「それで、いったい神はどうなってるんだい」

と聞かれ

「え、それって何?」

と答える落ちもあった。

多くのギャグの中で面白いと思ったのは、この数日あらゆるところでお題目のように

「イスラムとテロリストのアマルガムをしてはいけない(混同してはいけない、同一視してはいけない)」

と唱えられているのを揶揄して

「イスラムとテロリストのアマルガムをしてはならない、ぼくはテロリストを知っているがムスリムでないやつがたくさんいるよ」

というものだ。

もちろん本来は「テロリストでないムスリム」というべきところである。

昼間の政治家の行進のことも「シャルリー」が残した最大のカリカチュアだと評されていた。

アフガニスタンの作家は、自分はジャン・バルジャンのフランス、ヴォルテールのフランスに憧れてやってきたが、そのフランスに今日はじめて出会うことができた、と言っていた。

「あなたはムスリムですか」と聞かれて

「私は私の宗教です。

自分の弱さを認識していることで仏教徒であり、

自分の弱さを告白することでカトリックであり、

自分の弱さを恐れることでムスリムであり、

自分の弱さを歯牙にもかけないことでユダヤ教徒です」

と答えていたのも楽しい。

深刻だったのは、イラクなどでレポーターをしている女性ジャーナリストがその場を借りて、「イスラム国」が4000人の女性を誘拐して性奴隷化してジハディストに提供していること、世界中からやってくる若者たちの中には、それが目当ての者もいるのだということを訴えたことだ。

なるほど。

彼らはウェブ上の勇ましい戦闘シーンなどを見て鼓舞されているのかと思っていたが、表には出なくても、「あそこに行けば…」という情報が浸透しているということらしい。

9・11の後の呆然と自粛と報復の雰囲気と違って、フランスではこういう時に表現者たちの存在感が増すところが頼もしい。

ゴールデン・グローブ賞の授賞式でジョージ・クルーニー(アイルランド系カトリックで、レバノン出身のアラブ系イギリス人と最近結婚した)が最後にフランス語で「私はシャルリー」と言ったし、シンプソンのアニメで赤ん坊も「私はシャルリー」のフランス語の旗を掲げていた。
2003年のブッシュ大統領のイラク侵攻の時に、シラク大統領が真っ向から反対した時、セザール賞の授賞式でマイケル・ムーアがフランスを称賛したことも思い出す。

アーティストたちは基本的に「表現の自由」の風の吹くところでしか生きていけない。

それに対してオバマ大統領はその日これといった予定がなくてワシントンにいたのにパリに駆けつけなかったことでいろいろ批判されているようだ。

オバマ大統領が出席したなら日本の首相も行っていたのだろうか。だとしたらますますカリカチュアだ。

今回「私はシャルリー」たちの発する提案の中で一番過激だと思ったものは、

フランスに「冒涜の権利」法を成立させて、その条文をすべての宗教の聖所の扉に張り付けておく、

というものだ。

誰かにとっての「聖なるもの」を他人に強制してはならないからだ、と言う。

「聖なるもの」を崇めることを他者に強制するのは明らかに間違っていると思うが、それがすなわち「冒涜を許可する」のにつながるというのには少し違和感を覚えた。

だれかにとっての「聖なるもの」はリスペクトされるべきではないかと思ったからだ。

たとえば、ある人ににとって「聖なるもの」である母親を「お前のかあちゃん***」というような言葉で侮辱されたら、それだけで報復されるケースがある。
2006年のワールドカップの決勝戦で相手チームの選手からこの種の侮辱言辞を吐かれたジダン選手が相手に頭突きをして退場させられたことを思い出す。

人それぞれ「マイ聖域」や「マイ聖なるもの」があってそれが表明されている場合や、親や家族や祖国や宗教のように「聖なるもの」かもしれないと想像できるものについては、それが他者にも強制されているわけでない場合は敢えて嘲笑したり侮辱したりしてはいけないのでは… ? と単純に思った。

しかし『ル・ポワン誌』でサルマン・ラシュディ(『悪魔の詩』でホメイニから死刑宣告を受けた)のコメントを読んで納得した。

風刺の芸はいつの世も自由の側に立ち、暴君や不正直や愚行に対抗してきた、
『宗教をリスペクトする』ということは今日『宗教を恐れる』ということと同義になっている。
我々はある思想を批判するように宗教を批判しなくてはならない、
身の危険を感じることなく揶揄したりリスペクトを欠いたりできなくてはならない

こう言われると分かる。

時代の文脈の中で、ある宗教を批判すると仕返しに何をされるか分からないという原理主義、全体主義がまかり通るシーンでは、「報復を恐れる」故の自粛や沈黙という状況が発生し得る。

リスペクトが恐れに裏打ちされているような時には、それを打ち破る揶揄が許されなくてはならないのだ。

これは相手が宗教だけではなく、独裁国家で独裁者の批判をすれば罰せられたり抹殺されたりする場合も同じだ。

イラン出身の女性小説家であるChahdortt Djavann の言葉にも共感した。

宗教であろうとイデオロギーであろうと、ある社会で思想のシステムとなっているものはすべて批判や揶揄の対象になるべきである。
特にそれが「絶対の真実」として主流秩序の中で通用している場合には。
イスラムの指導者は、イスラム過激派について「あれは本来のイスラムではない」などと悠長なことを言っている場合ではない、「イスラム批判は一つの権利である」と断言しなくてはならない。
それはヨーロッパで過去に人々がキリスト教の異端審問などに「否」を唱えて戦ってきたことと同じだ。

この意見は結局、最初の「冒涜の権利」に通じている。

なるほど。

いや、この『ル・ポワン』誌はシャルリー事件の直後の緊急編集でできるだけ多くの人のコメントを載せているので、どの人も多分まだショック状態だったろうから、普段考えていることや本音がでてしまっていてなかなかおもしろい。

この事件について最初にどうコメントするかで、それまでに言ったり書いたりしてきたこと以上に、その人がどういう人か分かってしまう。

他にもいろいろな切り口があるのだが少し休憩。

サイトの掲示板にこの件で質問があったのでそこにもコメントしておく
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by mariastella | 2015-01-13 09:14 | フランス
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