L'art de croire             竹下節子ブログ

北欧のカリカチュアとテロ事件

フランスのテロからひと月あまり経った2月14日に、デンマークのコペンハーゲンの文化センターで、『シャルリーエブド』へのオマージュも込めた「表現の自由」会議があって、そこにフランス大使(フランスの内務大臣と仲がいい)も出席していたのだが、外から銃弾が40発撃ち込まれた事件があった。

犯人はパレスティナ系移民の二世でデンマーク国籍、次の日未明にシナゴーグを襲ってユダヤ人を一人殺し、自分も撃ち殺された。フランスのニュースでは例の「イスラムとテロを混同するな」のお達しを守って、犯人がパレスティナ系だとかムスリムだとかは一切コメントされなかった。

この時に直接の標的になったのはスウェーデンの画家で2007年にムハンマドの顔を犬の胴体につけた戯画を描いたラーシュ・ビルクスだった。

デンマークと言えば、2005年に自己規制に反発した新聞が12人の画家による「ムハンマドの顔」を掲載してイスラム系の国から大反発を受けて『シャルリーエブド』事件の発端にもなった国だ。

一方ラーシュ・ビルクスの方は、ヨーロッパイスラム化反対愛国同盟(ペギーダ)の推進者で、2011年にオスロであったネオナチ系の連続テロの犯人の公判の折に共感的なことを述べていて、「表現の自由」より「嫌イスラム」の雰囲気のある人だ。

この人に比べたら、2005年にムハンマドのターバンのかわりに爆弾を描いたクルト・ベスタゴーなどはもっと正当的な「表現の自由」擁護者だと思うが、ベスタゴーはテロに狙われるリスクが高すぎるとしてデンマークの新聞社から「永久求職」扱いにされてしまった。今回の事件で、今年80歳になるこのベスタゴーが、自分はビルクスを擁護するし、自由に描き続ける意志もあると述べていた。

ビルクスも60代末の人だけれど、パリのテロで殺された画家のうち2人も80歳、76歳という年齢で現役で、こういう人たちが「安全に余生を過ごす」ことなく命をかけているのを見ると、日本のウェブサイトで匿名で「イスラム国クソコラ画像グランプリ」をやっている人たちとは別種類の信念の強さが伝わってきてリスペクトの気持ちが湧き上がる。

といっても、老いてますます人種差別や憎悪にしがみつくタイプの表現者がいるのだとしたら、それも怖い。

でも、確かノルウェイのテロの時も書いた気がするが、もともと金髪碧眼系のスカンジナヴィア諸国では、アラブ系移民は見た目が違いすぎる。

フランスのように人種や文化の混ざり方の多い国とは違う。

いわゆる「統計」の世界では北欧諸国は何でも先進のトップを行く自由平等の豊かな国ということになるが実態は複雑だ。

出生地主義で移民二世にあっさり国籍をくれて「平等」のはずなのだが現実として移民の二世は移民労働やまたは失業者のグループに留まる。
それはフランスも同じなのだけれど、フランスにはサッカーのナショナルチームを見てれば分かるようにたとえばカリブ海の海外県の黒人のように「移民じゃない異人種」もたくさんいる。 
帝国主義の歴史がよくも悪くも混合社会を形成しているのだ。  

でも北欧の場合は、主として労働力として入ってきた移民が、一見平等に扱われているように見えて「棲み分け」があるわけで、「見た目の差」と「宗教の差」が一致している。なかなか混じらない。
ドイツでもドレスデンのような町でペギーダのヘイト・デモが定期化しているのが問題になっているけれど、そういう町の「普通の人たち」は、単純に言って、「見た目が違い、宗教が違う」人たちに「慣れていない」のだ。

私は個人的に、北欧には住めないと思う。ドレスデンにもアイオワにも。

パリのような町では、もちろんカルチェによっても違うが、留学生やツーリストも多いこともあって、見た目の「雑多」がデフォルトになっている。それはニューヨークやロンドンのような都市でも同じだろう。

日本人が見たら、はっきり言ってラテン系もゲルマン系もアラブ系も区別がつかなかったりする。
「見た目」で違いが分かるのは黒人だが、前述したように「旧植民地」の歴史でもう何世紀もキリスト教化してフランス人化している人たちが圧倒的に多いので差別は少ない。というより、見た目が大きく違う人への差別は分かりやすいので規制も激しいし自主規制も働く。

その他に「見た目が違う、宗教も違う」と思われているのはアジア人だ。

でもアジア人のコミュニティは長い間、棲み分けが進んでいたので衝突の対象にはなっていなかった。
それでも、「アジア人=中国人=クリーニング屋か中華料理屋(今は寿司レストランも多い)」という類型でくくられて、一般フランス人(白人)がそれらの人たちと接するのは「客」としてだから、自然と「見下し」目線が入る。

アジア系移民は教育熱心なので二世以降は「共和国教育社会主義」の恩恵を受けてむしろエリートになるが一世の人々は共同体主義のせいでフランス語があまりうまくないせいもある。

私はそれに長い間気づかなかった。

なぜかというと、私は日本人で、フランスのインテリ層には伝統的なオリエンタリズムやジャポニスムがある上に、テクノロジーやマンガなどサブカルチャーのおかげでむしろ買いかぶられているからだ。もちろん都市に住んで主としてインテリ層やアーティストたちと接しているからでもある。

一方、フランス人からは好かれていても、パリに住む中国人や韓国人に対しては私ははじめ警戒していた。
なぜなら、中国や韓国の反日的プロパガンダのせいで、日本人は彼らから敵視されていると思っていたからだ。個人的に親しい友人はいるが、一般の中華レストランや食料品店に客としていく時は何となく、目立たないように低姿勢でふるまっていた。

でも、ある時、韓国レストランに傘を忘れて次の日に電話すると、「忘れ物はない」ときっぱり言われ、それでも「…時頃に行った日本人なんですけれど」と言うと、「あ、それなら、傘はあります」と態度が変わったことがあった。「なんだ、この差別は」と思ったが、無事に傘を取りに戻った。

それから、中華レストランでも、惣菜屋でも、特に私が一人だと、実は特別親切にしてもらえている気配を感知するようになった。
「日本人か」と聞かれることもあり、日本人だと言うと「日本人は綺麗だ」とフランス語の下手な総菜屋の女主人(私より若い)から何度も言われたこともある。
他のフランス人の横柄な客の前であからさまに私に過剰サービスがなされることもあった。
私が明らかにフランス語に不自由していないことも、なんだか「アジア人として誇らしい」みたいな感じなのだ。

そこには、彼らが「普通のフランス人の客」から普段何となく見下されている抑圧もうかがえる。

これは旧仏領インドシナのベトナム人とかの場合ではもちろんない。彼らはフランス語で苦労していないし、私も向こうが反日ではないかと警戒しないので問題がない。

日本では「見た目が同じ」な韓国や中国人との軋轢があるのに、アジア人がマイナーな場所ではそれは消滅する。

アイデンティティなんて、どの文脈で何に注目するかによって変わるものでましてや人種や文化や習慣の違いで区別したり差別したりすることがいかに無意味かが分かる。

デンマークは第二次大戦中にユダヤ難民を受け入れた国で、フランスはドイツに占領されてから率先してユダヤ人を迫害した国なのに、今のフランスはヨーロッパ最大のユダヤ人コミュニティとムスリムのコミュニティを擁している。

そのベースに、「表現の自由」についての長い戦いと試行錯誤と反省の歴史があると信じたい。
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by mariastella | 2015-02-24 03:22 | 雑感
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