L'art de croire             竹下節子ブログ

暴力の陳腐さについて

暴力というと「イスラム過激派のテロリスト」などというイメージが浮かぶけれど、集団暴力の行使がなくてもいいようなところでもあちらこちらで野蛮な事件が起きている。

ここ数日の国際ニュースで言うと、ウクライナの停戦が守られていないで相変わらず毎日死者が出ている情況なのはまあある程度予想できたにしても、キエフのサッカー・スタジアムでキエフのチームとフランスのブルターニュのチームが戦った時、キエフのサポーターがグラウンドに降りて来て試合をストップさせ、フランスのサポーターたちを椅子で本気で殴るなどすごい勢いだった映像を見た。

今のブルトン(ブルターニュの人)なんて地元では赤ベレーのデモをしても、実際には暴力のための暴力に免疫がない。彼らは身の危険を感じて無我夢中で逃げてスタジアムを去ったという。口々に、

「あれはサッカーの試合でなくて戦争だった、サポーターでなくて民兵だった」

と「戦争体験」を語っている。キエフのサポーターは興奮して降りてきたのではなく、明らかに試合を中断させるために意図して降りてきたとも。

フランスではウクライナ内戦について、親ロシアの軍隊よりも当然「親ヨーロッパ」の政府軍や民兵を応援しているので、このスタジアム事件は大きく取り上げられなかった。イスラム国に手をやく今は手のひらを返したようにシリアのこの前までは悪の権化扱いしていた独裁大統領アサドに接近さえしている。

でも、ロシアに対して「親ヨーロッパ」として東ウクライナで殺し合うのと、サッカー場でブルターニュのサポーターを攻撃するのと、メンタリティの底にある暴力志向は共通しているのではないだろうか。

同じようにギリシャでは、希望の星だったツィプラス大統領がEUの要求をひとまず呑んだというので怒った民衆が暴動を起こし、放火など破壊行為が広がった。
これももう、理屈でなくて、気に入らなければ実力行使という点で、「暴力の陳腐さ」に唖然とする。
冒瀆でなくても神でなくても口実は何でもいいかのようだ。

ハンナ・アーレントが「悪の陳腐さについて」語ったのは有名だけれど、この世には、自分では直接暴力行使をしない総統だの尊師だの国歌元首だの暴力を指揮する「悪」とそれを遂行するという「陳腐な」展開もあれば、不満や怒りをたやすくそのまま暴力に発展させるグループもあるわけで、その暴力の陳腐さ、ハードルの低さには慄然とする。

私は自分にとってさまざまな誘惑や保身によって「悪へのハードル」がぐんと下がる場面は想像できるのだけれど、物理的「暴力」の発現というのはほぼ考えられないので余計にショックを受けるのかもしれない。

サッカーと言えば、2022年だかのカタールのワールドカップがやはり気温のせいで年末開催ということに決まって、プロリーグの怒りをかっている(シーズンを中断させられては彼らの金儲けに大いに影響があるからだ)。
最初から徹底して「金」力で動いているカタールの一連の国際行事開催だが、この国からおそらくテロリストにも莫
大な金が流れていると思うと金と暴力との関係についてもあらためて考えさせられる。
フランスがワールドカップでは五億ドル使い、ドイツは六億ドルが使われたがカタールでは二千億ドルなのだとダニエル・コンベンディットが言っていた。
しかもカタールでは炎天下で、パスポートを取り上げられている移民をほぼ使い捨ての奴隷労働に従事させて工事を進めていることも有名だ。

善や美が「陳腐」に思えてくるような世界の到来は、遠い。
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by mariastella | 2015-03-01 00:03 | 雑感
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