L'art de croire             竹下節子ブログ

フランソワ・オゾンの『危険なプロットDans la maison (家の中)』

2012年のフランソワ・オゾンの映画『危険なプロットDans la maison (家の中)』。

この人の映画は私の好みに照らして当たり外れが大きいので、テーマ(リセの教師と男子生徒の心理劇)を鑑みて公開当時は観る気がしなかったのだけれど、最近観る機会があった。

つい最近の作品Jeune et joliもリセの女子学生が主人公で、高校生が主人公というのは興味が持てなくて観ていないのだけれど、オゾンはリセの教師夫婦の家庭で育ったそうで、家庭で採点をする様子や校長との軋轢などの様子がすごくリアルだ。

私もリセで教えたことがあるし、親しい友人にもリセの教師が何人かいるのでそのリアルさが「息苦しさ」とし実感できる。

原作はスペインの戯曲で『最後列の少年』、つまり教室の最後列にいれば(教師以外の)誰にも見られることなくすべてを見渡せる、という学校やクラスのコミュニティの外側にいる生徒の視点があり、それは社会の外側でもあり、最後は現実と創作の区別さえつかなくなっていく。

このテーマをオゾンが自由に「料理」したら、最近コメントしたクルーゾー風味もあり、明らかに影響を受けているパゾリーニの『テオレマ』だのベルイマンの作品なども透けて見える上に、オゾン自身がそうである同性愛者の陰影も濃縮だし、「語り方」「見せ方」だけで緊張感を高めていく手法も職人技で、確かに独特の世界に仕上がっている。

ナレーションと演技の組み合わせ方が工芸的ですらある。

オゾンの魅力で可能になるキャスティングも相変わらずすごい。

リセ教師ジェルマンのイギリス人妻が任されているが経営危機に陥っているパリの画廊の持ち主である「双子の姉妹」という端役がヨランド・モローということだけでキャスティングの癖の強さが分かる。

主人公の少年クロードは16歳という設定で、本当のリセアンにこんな演技(倒錯的でナルシスティックで頭脳明晰なのに実生活では母に捨てられ失業者で障害者でアルコール依存の父親の世話をしなくてはいけない)をさせたら精神衛生に悪いんじゃないかと思うが、やはり「成熟」が必要ということで、金髪碧眼ゲルマン系21歳のエルンスト・ウンハウアーだったのでほっとする。

16歳の少年がクラスメイトの数学の勉強を助けるという目的で良心の中がよさそうな「中流家庭」の中に侵入し、家族同様に扱ってもらいながら家族には慣れず、インテリアのことばかり考えている専業主婦らしい母親に接近したり、一人息子であるクラスメイトから同性愛に近い思いを向けられたりする。
でも、そういう性的なイメージが喚起される割には、サスペンスの方が勝っていて、セクシーではない。

もちろんなんといっても、秀逸なのはジェルマンを演じるファブリス・ルキーニで、映画製作過程を記録した52分の記録映画を見ると、この人って、本当にリアルでも、ハイで饒舌で、アドリブの連続だということが分かる。
しかし名俳優である彼と共に盛り上がりながらもその暴走を避けようと緻密な演出にこだわるオゾンの様子もよく分かって、2人の掛け合いが興味深い。

クリエイターとは何か、その享受者とは何か、というのを、小説作法の形を借りながら実は映画製作についての監督の自分語りが展開されているわけだが、フランス人が「小説家志望」であることと日本人が「小説家志望」であることの文化的、歴史的な違いにもあらためて感じ入る。

日本の「国語教師」がこのような思い入れをすることはあり得ない。フランスにおける「作文」の課題の執拗さは日本では想像できないし、日本の国語の教科書ならいつもダイジェストばかりだけれど、フランスでは一学期間に古典を何冊も読まされる。

だからこそ、小説家志望の夢が潰える時も、個人的なルサンチマンよりも、読み込んできた大作家の才能の大海の中で溺れ沈んで浮かび上がることのない苦しさが消えずに残る。

もう一つ今のフランス的だなあと思ったのは、昔のアメリカン・ドリームみたいなものが今は「中国」に向けられているというところだ。これは実態を反映していて、中国の呼びかけたアジアインフラ投資銀行(AIIB)にヨーロッパの主要国が迷わずに参加するのも当然なのだ。
いまやヨーロッパもアメリカから中国に乗り換えた方が夢を見られるというわけである。

「乗り換えられる」側のアメリカが参加しないのも分かるし、日本の場合はアメリカ追随プラス中国への反発があるのだろうが、日頃、フランスと日本のメンタリティは結構似ているなあと思っているのに、「中国」にどういうイメージを持っているかに視座を置くと、さすがに共通点が一つもない。

日本から英仏や独仏の歴史的葛藤が全然見えないのと同じだなあと思う。
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by mariastella | 2015-04-21 07:24 | 映画
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