L'art de croire             竹下節子ブログ

女性政治家への性差別とその「例外」

フランスの政界におけるセクシスム(性差別)についてのドキュメンタリー番組を偶然見た。

かなりシビアなテーマを切り下げているのに、そこはフランス風としか言いようのないエスプリがあって、よくできている。

フランスも政界は「男の世界」がデフォルトだったから、そこにある基準は男性用のものしかない。

フランスでは選挙の候補者を男女同数立てない政党は罰金を払うことになっているが罰金を払っても男性候補者をたてる政党は多い。

先日の地方選でははじめて、どの候補も男女一組という方法がとられた。

それでも実際は女性は飾りでしかないことが多いのだが、「いるだけ」でも「目に見えるだけ」でも、人々の意識がだんだんと変わってくるから意味があるのだという。

前に、イギリスではサッチャー首相などのカリカチュアがひどく醜かったのにフランスのギニョールなどでは男性のデフォルメはすごくても女性政治家は概してきれいなままであることを書いたことがある。

これについて女性の外見をリスペクトすることはいいことだと私が言うと、フェミニストの友人から、

それ自体が女性差別だ、男性と同等の扱いをされるならデフォルメされているはずだ、

と言われた。

でも私は、たとえばサルコジ前大統領は大嫌いだったが、彼の身長について何かというと差別言辞が普通にとびかうのはもっと嫌だった。本人の努力で変えられないような身体的要因について揶揄するのを許すのと女性政治家を女性ということで揶揄することは同じ流れにある。

で、「政治家」の「基本形」が短髪ダークスーツの中高年男性であるから、女性はヘアスタイルからアクセサリー、服や靴まで、モデルというものがない。

それで何をどうしても揶揄される。

女らしくないとか、女っぽすぎるとか、派手すぎるとか地味すぎるとか、とにかく外面をまずコメントされるのだ。

政策インタビューでヘアスタイルの変化の意味について質問された女性候補が怒り出したこともあるし、セゴレーヌ・ロワイヤルが社会党の大統領候補のプレ選挙に出た時は「子供の世話はだれがするのだ」と対立候補に言われた。

内閣には女性大臣が多用されているが、「アリバイ作り」の感は否めないし、子育て中の若い女性も多い(ロワイヤル女史も4人の子供がいた)。

ドキュメンタリーの中では、女性閣僚の一人が、子供の学校が昼から休みになる水曜日に定例会議をするのを変えてくれと申し出たら、第五共和制になって以来ずっと水曜日であり変えられない、と断られたという証言もあった。

しかしこのドキュメンタリーのコメントで私が一番驚き納得したのは、そのような「女性」というレッテル付けからたった1人「圏外」にいる大物女性政治家がいるという指摘だった。

次の大統領選では決選投票にまで進むと言われている人だ。
極右人民戦線党の党首マリーヌ・ル・ペンである。

確かに、彼女のことを形容する時は誰も「女性」とは言わない。

ル・ペンであり、極右であり、その言動、その政策だけが問題にされる。
外見をとやかく言われることはまったくない。

ひとつには党を創設した父親のジャン=マリー・ル・ペンのイメージが強いからかもしれない。
最初は一卵性父娘のようにセットになって、いつの間にか世代交代して娘が父を追い出しかねない勢いになっているのだが、娘はそのまま父の進化型というイメージなのだ。

彼女の外見がどうかというと、極右らしいというか白人フランスのイメージ通りの明るい金髪が肩にかかっている。同じ金髪でも短髪のメルケル女史とは違う印象だ。こんなとかこんなふうに胸のあいた服にペンダントという「女性」らしいスタイルもしている。

まだ今年47歳で、一男二女の母。

二度離婚して今もパートナーがいるが、みな党の歴代幹部だ。

「女性」人生のフルコースをこなしていて、その意味ではロワイヤル女史と同じなのに、「子供の世話は誰がする?」というような揶揄はない。

もちろん極右、「共和国の敵」としてそれこそ『シャルリー・エブド』などではひどいカリカチュアが出るが、彼女の場合、それは決して性差別に発してはいない。

ドキュメンタリーの中でも分析されていたが、政治家というのは人の集まりの中で「いかに大きな声」を出すかが重要で、声質の高い女性、細い声の女性は声量から言ってもどうしても不利になる。

高い声は子供の声にも通じ、男の子は声変りをして、「大人の男になる」ことと「低い声」がセットになっているから、女性が選挙戦や議会で高い声を張り上げていたらヒステリックだとか感情的だとか批判される。

ロワイヤル女史は低音だったのでその点は落ち着いた印象を与えたが、声で「女性」性を揶揄される女性政治家は少なくない。

ところがル・ペン女史は、生まれついての大声の上、がらがら声で迫力がある。体型も、太っていないが骨格が堂々としている。「大きく強い」印象がある。

それらの要素が相まって、ル・ペン女史は自らを性別、性差別、ジェンダー差別の圏外に置くことに完全に成功しているというのだ。

そういわれてみれば、確かにそうだ。

ロワイヤル女史が大統領になっていたら「フランス初の女性大統領」と言われたろうし、次にヒラリー・クリントンが大統領になったら「合衆国初の女性大統領」と言われることだろう。

けれども、もしル・ペン女史が大統領になったら「フランス初の女性大統領」ではなくて、「極右国民戦線の大統領」で「共和国の危機」となる。

ル・ペン女史の支持率の急上昇はいろいろな意味で気になる問題なのだけれど、セクシスムの観点から見ると、なかなか珍しいケースだと感心した次第だ。
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by mariastella | 2015-04-28 00:32 | フェミニズム
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