L'art de croire             竹下節子ブログ

うりずんの雨

岩波ホールにジャン・ユッカーマン監督の『うりずんの雨』を見に行った。

沖縄について、戦争、占領から今の辺野古の問題まで、歴史的にも、日米の両視点を通して、こんなにクリアに教えてもらったのははじめてだ。

大切なエピソードは過不足なく取り上げられている、と元沖縄県知事の大田昌秀さんが太鼓判を押してくれている。

この映画を見て、パンフレットをあわせて読むと完璧だ。

映画では語られていない、地主問題、米軍基地経済の神話、嘉手納の使い方、軍事安保でなく経済安保へという考え方などもよく分かる。

この映画の最後のほうでは、米軍内での女性兵士への暴力やハラスメントの告発がある。

同様に、パンフレットの中で前泊博盛教授が今のアメリカ自体を危機に陥れつつある軍事産業依存、軍依存経済の問題にもふれている。

沖縄が脱基地経済、脱軍事経済をどう目指すかによって、逆にアメリカに示唆を与えるかもしれないと言うのだ。

確かに、一つ一つの問題は関連しているし、大きな流れを変えることでしか根本的には解決できないというのがよく分かる。

アメリカ人も、監督はもちろん、少なくとも、インタビューに答える人たちはみな真摯で信頼感がもてた。

こういうことに熱心になる人がいるのもアメリカのいい面だ。

1995年の小学生暴行事件の犯人の一人である黒人兵の証言すら、衝撃的だけれど深い印象を与える。

当時21歳、7年間の服役を終え、今は地元で暮らしている。

「何を血迷ったのか分からない、もう一度やり直せるのか、もう一度やり直す資格があるのか、忘れたほうがいいのか?

どうせ地獄に落ちるんだ。

神の赦しなどより、本当に彼女は赦してくれるだろうか? 

世間が赦してくれることはないだろうが、彼女は赦してくれるのか。

もし赦されたとしても地獄行きは変わりない。

すべきでないと分かっていることをしてしまったのだから。

教会に通っている。

おゆるしをと祈っています。

でもゆるしを祈っても、どのみち地獄に落ちるんだ。

僕はそう思います。

いつもそう考える。」

高校を出ですぐに兵士となったアメリカ南部の黒人青年。

今でも残る黒人差別を考えても、彼を犯罪に追い込んだのは、軍隊や基地の特殊なメンタリティのせいであるというだけではなく、アメリカの歴史や社会とも無関係ではないとわかる。

それにしても、この人が、3度も「地獄に落ちる」と絶望しているのが気になった。

この人は南部のプロテスタントの福音派なのだろうか。

罪と赦しについて前に『罪と恩寵』という戯曲についてコメントしたことがある。

でも、カトリックだったら、まだ若いこの元兵士の「救い」があるんじゃないかなあ、と、なんとなく思う。

でも、カトリックはそういう「ユルイ」ところを犯罪者に利用されることがある。

フランシスコ教皇にはっきりとコミュニオンを拒否されたマフィアがそうで、どんなに人を殺すなどの犯罪を確信を持って犯しても、司祭に告解すれば赦してもらえる、神から、教会から赦してもらえさえすれば、被害者など人間のレベルは問題なしで、良心の呵責がない。

彼らがキリスト教で採用するのは

「どんな罪も赦してもらえる」と

「貞節(これはまあ、特に娘の純潔とか、妻の不倫を絶対許さないとかそういうことに適用される)」、と、

「洗礼、堅信、結婚、葬式などの冠婚葬礼の遵守」というみっつである。

教区には莫大な献金をしているから、告解を聴いて罪障消滅を宣言してやる御用司祭のようなものも少なくなかった(その多くは職務停止になった)。

赦しと救いの問題というのは難しい。

でも最近日本で出版された、神戸連続殺人事件で小学生らを殺した犯人の手記にまつわるコメントをいろいろ目にしたのだが、そこにはこういう、「人間の世界」を超えた部分での贖罪とか、救いや赦しを求めるという観点がまったくなかったなあとあらためて思った。

余談だが、この映画をいっしょに観に行った従妹から、たまたま、母方の祖父の系図のコピーをもらった。うちに帰って眺めてみると、祖父の弟の一人が「沖縄にて戦死」とあった。子供はいない。

「墓には昭和20年6月20日となっているが戸籍には戦死の日が6月22日となっている」との注があった。

私の知っている限りでは鎌倉生まれの人たちだ。だから、『うりずんの雨』で証言した元兵士が沖縄に来て食文化が違うのを見て自然に同じ民族ではない、と「見下した」ような気分になり、それが人間性否定につながった、と言っていたのと同じような体験を、私の大叔父にあたる人もしたのかもしれない。

『うりずんの雨』に映っていた日本兵の中には、ひょっとして、私の大叔父がいたのかもしれない。

急に、つながりを感じさせられたのも、不思議な縁だった。
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by mariastella | 2015-07-09 13:29 | 映画
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