L'art de croire             竹下節子ブログ

妹たち ―― BHLの妹とアンリ・ベルクソンの妹

BHLと言えば、1970年代のフランスに登場したメディアに強い若手nouveaux philosophes(新哲学者)たちの中でも、アンドレ・グリッュクスマンと共に21世紀の今も影響力の大きいベルナール=アンリ・レヴィのことだ。

BHLは富裕家庭出身のエリートで、奥さんがユニークな女優のアリエル・ドンバルで、政治的な言動も多い。
セゴレーヌ・ロワイヤルやDSKを応援したこともあるし、リビアのカダフィ掃討作戦などに率先して加わりサルコジを称賛した。
演劇、映画、アートの世界にも強く、全方位型の目立ちたがり屋でもある。

レヴィという名から分かるように、先祖がラビであるユダヤ人だ。

ところが、今年3月彼の妹ヴェロニックが本を出して話題になった。

彼女は団塊の世代の兄より20歳若い。華やかに活躍する兄BHLと、20歳で自動車事故に会い後遺症が残ったもう一人の兄の陰で成長したヴェロニックは、いわゆる「非行少女」になった。

酒、ドラッグ、男、夜の街。

ところがそんな生活を送っていた彼女がある時イエス・キリストに会うという「神秘体験」をして「回心」し、2012年にノートルダム大聖堂で洗礼を受けた。

由緒あるラビの家系のユダヤ人なのに。

その回心ぶりも激越で、「イエスさま、全部あなたのためにこうします」と言いながら大きなゴミ袋にハイヒールやガーターベルトや体にぴったりしたドレスなどを全部捨てたという。

派手な生活から一転して、イエスと結婚したと称し、祈り三昧の生活、ノーメークで金髪をお下げに編んだ姿はまるで少女のようだ。

その体験談を出版し、メディアにも出まくって、一躍時の人というか、それでもなんだかコスプレをしているかのように斜めに見られることもある。

 このようなヴィジョンを得て「イエスさま命」となった女性や修道女は昔からたくさんいるのだけれど、この時代に、あのBHLの妹が、何でまた ? と不思議で、家族の歴史をいろいろ調べてみてしまった。

で、その時に、どうしても思いが至るのが、哲学者アンリ・ベルクソンの妹モイナ・ベルクソンのことである。

ベルグソン兄妹もユダヤ人だった。

ポーランド系ユダヤ人の父とイギリス系ユダヤ人(アイルランド人という説もある)の母のもとに生まれた7人の子供のうち2番目と4番目でアンリ・ベルクソンは1859年パリで生まれたが、その後、作曲家でピアニストだった父が1863年にスイスのコンセルヴァトワールに職を得て移住したのでモイナ(結婚前はミナ。スコットランド人と結婚後にスコットランド風に変えた)は1865年にジュネーヴで生まれている。

まもなく1866年に再びパリに戻り、父はオペレッタを作曲して上演もされたが、結局一家はロンドンに引きあげる(フランス語の資料では1869年で英語では1873年とあった)。

その時にアンリだけがパリのリセ(中高一貫)の寄宿舎に残ったというから、彼の上は姉で、アンリが長男だったのだろうか。毎夏はロンドンで過ごし、母が亡くなるまでは毎週手紙を書いていたという。

モイナの方は両親とロンドンに戻った後、オカルト教団の「黄金の曙」団の創立メンバーである男と出会い結婚する。(黄金の曙団はカバラ、錬金術、神託などを実践する19世紀末からのオカルトブームの代表のひとつでアレイスター・クロウリーなどが有名だ)

その結婚は性的関係を放棄したスピリチュアルなもので、モイナも教団の中心人物としてシビルの巫女、アイルランド女司祭の生まれ変わりなどのいろいろな役割を果たして予言などをした。

絵の勉強をした画家でもあり多くの作品を教団のために残したが、最後はすべてを破棄し、断食行に入って1928年に死んだ。

兄のアンリがノーベル文学賞を受賞した次の年のことだった。

BHLと修道女風の妹ヴェロニック、アンリ・ベルクソンと古代の巫女風の妹モイナ。

形は違うけれど、何かねじれた因縁めいたものを感じないでもない。
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by mariastella | 2015-08-29 07:45 | 雑感
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