L'art de croire             竹下節子ブログ

「英雄(ヒーロー)」という言葉

アムステルダムからパリへ向かう国際列車に重武装のテロリストがベルギーから乗ってきて乗客らを襲おうとしたのを休暇中の米兵やイギリス人、フランス人の乗客が素手で取り押さえたというニュースがあった(中には傷を負ってまだ入院中の人もいる)。

お手柄の乗客らはアメリカでもフランスでもすっかり英雄扱いされている。

身の危険を感じなかったか、との質問に彼らは異口同音に何も考えず夢中だったと答えている。

身の危険と言えば、そこに居合わせた人たちは皆この世の終わりだと思ったというのだから、当然感じていただろう。

そこであきらめるか逃げようとするか、自分だけ助かろうとするか、結果的に自分も他の人も助けようとして反撃するか、それは人ぞれぞれの性格、力量、情況(赤ん坊連れだとか体が不自由だとか)などによってリアクションが変わってくる。

この時はたまたま若くて戦闘訓練も受けている人たちもいたので良い結果になった。

で、この時に「英雄の条件」というのがあらためて問われて、それは「謙虚」だというのがあった。

彼らがみな「自分たちはその時できることをしただけだ」と言っている、その謙虚な姿勢が多くの人の共感を得たのだ。

「謙虚」というのは見返りを求めない、損得の計算をしない、ということでもあると。

なるほど。

日本語の英雄というと、「英」は秀でているという意味だから、人格的に優れた者が「雄々しい」行動をした、ということなら、ヒーローと重なるが、どうも「雄々しい」という印象が勝っている。

「華々しく雄々しい」方が英雄視されそうだ。

カトリックで聖人の称号を与えるための列聖調査というのがある。

候補となる人(亡くなって5年以上たっている必要がある)を実際に聖人の列に加えるまでに、福者というタイトルがあり、その前には「尊者」という段階がある。(尊者と福者の認定が同時に出ることもある)

日本人では「蟻の町のマリア」と呼ばれた北原怜子さんが今年初めにヴァティカンから尊者のタイトルを送られた。

その基準に、信仰、希望、愛、賢慮、正義、勇気、節制という7つの徳を「英雄的に」生きたかどうかというのがある。

私はいつもこの「英雄的」という言葉に違和感を抱いていた。

日本語の「英雄」に、なんだか戦場で手柄を立てた勇者や競技場での勝利者みたいな華々しいイメージ、そして「雄」の字のせいで雄々しいイメージを抱いていたからだ。

靖国神社にまつられる「英霊」などという言葉も命をかけて勇ましく戦ったという含意を感じてしまう。

で、北原怜子さんだの、若くして修道院で死んだリジューの聖女テレーズなどには似合わない言葉だと何となく思っていたのだ。

でも、キリスト教世界でのヒーローとかヒロイックとかいう言葉には「謙虚」という含意があったわけだ。

それならすんなり分かる。

今は、誰でも自分の手柄だの所有物だの幸運だのをウェブにアップして見せびらかせるような時代だ。

それどころか、犯罪者が犯罪を広く劇場型にする時代だ。

アメリカのテレビで生中継の間に2人を殺して、それを犯人が自分でも撮影してネットに投稿するという時代でもある。

テロリスト・グループさえ自分たちの蛮行をビデオに編集して「英雄」気取りで「聖戦」参加者を鼓舞してリクルートするような時代なのだ。

「謙虚」な人は無視されたり踏みつけられたりする。

でも、今もどこかで、世間に知られることなく希望と愛と勇気をもって「悪」と戦い弱者のためにひっそりと尽くしている「英雄」たちも、世界にはたくさんいるのだろう。

それは派手でもなく華々しくもなく、目につかないけれど、持続し、継承されれば少しずつ大きな力となっていくものなのかもしれない。

「群衆は鉛の海で、火には容易に融けるが、動かすには重すぎる」と言ったのはリストだけれど、「英雄的な徳」の連鎖なら、いつかそれを動かすことができるのだろうか。
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by mariastella | 2015-08-30 00:27 | 雑感
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