L'art de croire             竹下節子ブログ

シリア難民について

フランシスコ教皇がすべての教区に難民一家族を、と訴えたのを受けてフランスの司教会議もすぐにそれに呼応する声明を出した。

率先して模範を示すためにヴァティカンもまだイタリアにいる難民でドイツやイギリスや北欧を希望していないでイタリアに留まるつもりのある2家族を「募集」している。

ヴァティカンには聖ピエトロ教区と聖アンナ教区という2教区があるからだ。

家族はヴァティカン内で教皇も住む聖マルタの宿泊所に迎えられるわけではなく、ローマ市内に借りるアパルトマンを提供される予定だそうだ。

イタリアの司教評議会はすでに行動を起こしているので今回教皇があらためて具体的に訴えたことにむしろ驚いている。

イタリアのカリタスによればイタリアのカトリック系組織はすでに毎日15000人から20000人の難民を世話している(地理的にもギリシャと並んで中東やアフリカからの難民が最初にヨーロッパに流れてくる場所だからだ)。

カトリックはもともと政治的「国境」を超えるのが建前だ。

たとえば、第二次大戦中の対独姿勢の曖昧さでいろいろな批判の対象にもなっているピウス12世も、1943年10/16にはローマの教会、教区の建物、神学校、修道院に向けて、避難を望むすべてのユダヤ人を受け入れるように通達を出しているし、教皇の夏の別荘のあるカステル・ガンドルフォにも数千のユダヤ人が匿われた。

中世やルネサンスの頃ならいざ知らず、20世紀以降にカトリック教会の頂点に立つような人は、歴史的な危機の事態においてはキリスト教の根本(すべての普遍宗教の根本といってもいい)にある弱者救済、マイノリティ救済を選択せざるを得ないのだ。他の国の政治家のように選挙民からの突き上げを心配せずにすむ強みでもある。

「国家」のレベルでは、今回ドイツが80万人受け入れOKということで「救世主」のような大人気で、日本のニュースを見ているとドイツは気前がよくイギリスはしぶっている、というような対比が書かれている。あいかわらずフランスのことがスルーされる日本の視点に、ある意味ほっとしている。

フランスではもちろん、このことについてのドイツとフランスの比較があちこちで論じられている。

ドイツにとってシリアの難民受け入れはメリットが多い。

失業率が少ないので国民の不満も少ない(フランスは失業率10%以上)。
出生率低下の少子化なので若い労働人口を増やす必要がある(フランスは出生率の高さを誇る)。
ドイツはこのことで、第二次大戦時の「ホロコーストの国」というイメージを払拭できる。

フランスは「人権宣言の国」の矜持があるので原則としては何とかしなくてはならないのでドイツに救世主のような顔をされたくない。

で、ドイツの偽善的なところもいろいろ突く。

シリア難民の受け入れを優先することでブラック・アフリカなどからの経済難民の受け入れの規制が強まっている。
シリア難民の多くは実は「都合がいい」のだ。

資産や職業スキルを持っている人も少なくなく、高い金を払って「旅行業者」を通して逃げてきた人たちもいる。

国に残っていればイスラム国に殺されるリスクが高いから亡命してきたので、これはある意味、ナチス・ドイツで裕福に暮らしていたユダヤ人たちが亡命を余儀なくされたのと似ている。

亡命ユダヤ人の資産や能力が連合国の勝利に貢献したように、亡命シリア人がもたらす潜在的価値も大きい。

また、現在のドイツの競争力の高さはすでに東ヨーロッパ(ポーランド、ルーマニアなど)の安い労働力を搾取しているからで、非ゲルマン人を格下に扱うことは自明であるetc...。

日本では「西洋的価値の押しつけ」が批判される時に、英米を念頭に置いているのだろうが「戦勝国の驕り」という言葉が使われルことがある。ドイツとフランスはそれに当たらない。

第二次大戦に限って言えばドイツにはまず「勝ち戦」の体験、驕り、強さ全開、の時期があって、最終的に完膚なきまでにやられて敗北したのでその落差が大きい。
戦後の東西分割のトラウマももちろんある。

フランスの方は、ユルく負けてユルく勝った。
首都をドイツに占領されてヴィシィに親独政権を立てて頼まれなくてもユダヤ人狩りまで協力し、レジスタンスやド・ゴールの自由フランスがうまく立ち回ったから「戦勝国入り」したけれど、今一つ後ろめたさがあるのでシニカルだ。
フランス革命も恐怖政治に終わるし、ナポレオンは皇帝になった後で島流しになるし、王政復古、帝政復古など繰り返して、アルジェリア戦争に至るまで建前と本音の乖離を自覚している。

ダブルスタンダードを堂々と使い分けるアメリカと一番違うところだ。

こういうメンタリティを踏まえるとヨーロッパの「難民対策」にもいろいろなものが見えてくる。
[PR]
by mariastella | 2015-09-08 19:01 | 雑感
<< 信仰とご利益   フィレンツ... 「世界の中心」じゃないフィレ... >>



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
以前の記事
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
カテゴリ
検索
タグ
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧