L'art de croire             竹下節子ブログ

ヴィジェ・ル・ブランの回顧展と回想

若桑みどりさんが生きていたら絶対喜ぶだろうな、と思うヴィジェ・ル・ブランの初の大回顧展が来年1/11までグラン・パレで始まった。その後はNYとオタワに行くらしい。

私がこの人のことを「女性画家」として意識したのは若桑みどりさんの『女性画家列伝』(岩波新書)を読んでからだ。

懐かしくてもう一度読んでみた。

相変わらず面白いが、彼女の肖像画のことを、自画像をのぞいて皆モデルがこう見られたいという欲求にそって、感じよく、観る者にアピールするようにまとめている、というのは必ずしもそうじゃないと思う。

マリー・アントワネットの肖像画をその御用画家ぶりの代表みたいに挙げているのだけれど、ヴィジェ・ル・ブランは、後の回想でマリー・アントワネットのことを

「背が高く、感嘆するほど良い体格で、ちょうどいい具合の肉付き。腕はすばらしく、手は小さくて完璧な形。足は魅力的」

などと「画家の眼」できっちり描写している。

若い時と母になった時の自画像、自分の娘の描き方を見ていると、他の肖像画もかなりリアルだったのだと想像できる。

まあ注文主のために多少の修正は施したろうけれど、素材を生かしたまま魅力的に仕上げるすべがあった。

3人の子に囲まれた母親としてのマリー・アントワネット像の構成など、死産した最後の子供が寝かされるはずだったベビーベッドを持ち上げる息子、その暗闇の配し方などなかなかぞっとする。

回想と言えば、彼女はフランス革命から逃れて一時イタリアに亡命したのだがその時のことをこう書いてい
る。

(トリノで)見たのは、神さま、なんという光景でしょう。街路も広場もフランスの町々から逃げて避難場所を求めてやってきたあらゆる世代の男や女たちでいっぱいでした。
何千人という単位でやってきて繰り広げるその様子を見ると胸が張り裂けそうでした。
彼らのほとんどは荷物も金も、パン一つも持ってきていませんでした。
命以外のものを助け出す時間がなかったからです。(…)
子供たちはおなかをすかせて哀れに泣き叫び、それまで荷馬車に乗ったことなどなかった妊婦たちはでこぼこ道の振動に耐え切れず多くが流産しました。
これ以上ひどいものは見たことがありません。
サルデーニャの王がこれらの不幸な人々を泊めて食べ物を与えるようにという命令を出しましたが、とてもすべての人に行きわたるものではありませんでした。

中東の難民ではない。
うーん、これを今のEUの難民対策委員たちが読めばなんと思うだろう。
わずか2世紀ほど前のことだ。

ヴィジェ・ル・ブランは亡命先のローマで1791年に、知り合いの歌手の妻マダム・カイヨーからの手紙を受け取った。

「私たちはみなが平等になるのです、黄金時代が到来するのです」と言って彼女にも帰国を促したものだ。

ヴィジェ・ル・ブランは信じなかった。

その少しあとにマダム・カイヨーは絶望の果てに窓から身投げして死んだという。

黄金時代の代わりに恐怖時代がやってきたのだ。

政治家がどんなプロパガンダを広めようと、苦しむのはいつも女子供などを含めた多数の弱者であり、憐れみを求めて別の場所に逃れようとするのは変わらない。

歴史を見ること、視点を変えることの必要性がよく分かる。
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by mariastella | 2015-09-27 00:20 | アート
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