L'art de croire             竹下節子ブログ

トルコのテロについて

トルコと日本はいろいろと似ているところがあるので他人事とは思えない。

まず、実は「西洋キリスト教」的文化圏とまったく異なるメンタリティと歴史と風俗と宗教の国なのに、「欧米」でも類を見ない徹底したフランス型の政教分離憲法を持っているところだ。いつのまにやら民主主義国でもある。

日本がアメリカから仲間はずれされないように健気にふるまうように、トルコもEUに入れてもらおうと健気にふるまっていた。

日本には「世界に誇る」平和憲法があるのだが今の首相はそれを改定して普通の国にしようとしている。

トルコの現在のエルドアン大統領も政教分離で議会民主主義の今の憲法を改定しようとしている。

「私が一番偉いんです」という独裁制に移行しようとしている。

でも今のところは「民主主義国」だからそのためには絶対多数の議席を獲得しなくてはならない。

今年6月の選挙でそれを目論んでいたのに過半数に届かなかった(日本との違いは投票率の抜群の高さだ)。
でもすぐに11月1日に新しい選挙をすることに決めた。

反政府運動は高まっている。日本のように若い人たちが先頭に立っている。

そんな中、国民を自分の方に向けるのには「危機の世界で国民を守る強い大統領」という印象操作が必要だ。

そのためには戦争だ。

政府にとってイスラム国よりも悪質な敵であるPKK(クルディスタン労働党、オジャランの党だ。でも武装しているので完全にテロリスト認定されている)を爆撃して戦争状態を作り出すことにした。

国内の緊張を高めて自分の独裁を通すための好条件もあった。

7月末のトルコ東部で32人の犠牲者が出たテロだ。

そして10/10、今度も具合よく選挙の3週間前に起こったアンカラでの大規模テロである。

政府としてはPKKの仕業にしたいところだけれど、標的となったデモ参加者の主体はPKKを支持する民主党だったので無理がある。

大統領に利する他の緊張要因は言うまでもなくシリアからの200万人という難民流入だ。

その中に本当のテロリストが混じっている可能性はあるし、難民の安い労働力を使うためにトルコ人労働者を解雇する企業も増えてきている。当然トルコ人の不満は高まる。

これらの困難に乗じてエルドアンが憲法を改定すると、これまで政教分離憲法によってイスラム教文化圏で独自の民主的地位を保ってきた貴重な東西の架け橋トルコの果たしていた緩衝材的役割は無に帰するかもしれない。

シリアと国境が接していてクルドの問題を抱えているトルコと、いくら中国朝鮮ロシアと近いと言っても島国である日本の地政学的立場は大いに異なる。

けれども議会民主主義が多数派の独裁志向に脅かされていて、たとえいろいろな矛盾をはらんでいても全体主義に対する一定の抑止力となってきた憲法の改定が目指されていることなど、似ている部分もあって他人事とは思えないのだ。

何となく身の丈に合っていない借り物風の憲法でも、日本の憲法もトルコの憲法もこれまで外交における一つの武器としても機能してきたのだから改定には相当の覚悟が必要なのは間違いがない。

国際情勢に合わせて憲法を変えるというが、憲法が変わっても国際情勢が変わるわけでないことは明白だ。

対症療法よりも、国として、というより人類として本当に目指すものは何かという視点のある憲法の根幹の部分が軽々しく扱われないようにとの思いを深くする。
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by mariastella | 2015-10-12 00:05 | 雑感
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