L'art de croire             竹下節子ブログ

アメリカ映画『マイ・インターン』を観る

映画を観るにあたっての、残酷、恐怖、サスペンス、ヴァイオレンスを避けたいという近頃のポリシーに基づいて、世代的にもぴったりだと思って観に行ったコメディが『マイ・インターン』だ。

30代のベンチャー企業の女性社長が社会事業の枠で採用した70歳の研修社員との触れ合いを通して癒されるという話。

デ・ニーロとアンヌ・ハサウェイが両方とも好演している。

リタイアしはじめた団塊の世代とも、ネット世代のネット・ビジネスに携わる若い世代も身近にいる私にとって、リアルな感じで面白いかなと思った。

出社して最初に自分のデスクのPCの前に、スマートフォンやイヤホンを置く他の若いインターンのそばで、老眼鏡と携帯電話を置くベン(デ・ニーロ)の姿や、Facebookにページをつくってみたがどうしていいかわからない様子など、実際、リアルでにやりとしてしまう。

「人生の二つの柱は仕事と愛だ」というフロイトの言葉が引かれているように、人には

「目的を持って生き何か(他者、社会、国、地域、会社、チーム…)の役に立っていると思えること」、

「愛し愛されること」

の二つが必要だというのは普遍的なテーマだろう。

ロバート・デ・ニーロ目当てで来る同世代の観客にとっては、このスーパーマン(というよりメリー・ポピンズの熟年男版)の全方向への慈善ぶりを眺めるのは決して不愉快ではない。

脇役陣もキャラが立っていて楽しいし、ヒロインの母親のうちに忍び込んでメールのデータを消すというスリルもあるし、ハッピーエンドで後味もいい。

でも、日本語のタイトルを調べるために検索したら「働く女性必見のデトックス・ムービー」のようなうたい文句があったのには驚いた。

フェミニズムのテーマとしてはある意味で古臭すぎる。

そして女性CEOジュールスのカップルの姿もカリカチュラルだし、専業主夫となった優しい夫が自分の時間が欲しいとか男として認められたいとかいう悩みを抱えて浮気してしまう展開にも、単にご都合主義という以上の問題点がひそんでいる。

それはアメリカのスタンダードであるアングロサクソンのプロテスタント文化の家庭モデルだ。

つまり、牧師夫婦が助け合って子供を育てるというモデルがあり、そこから逸脱することへの罪悪感というのが根底にある。

フランスでこの映画を観ていたら、不自然すぎるのだ。

ビジネスがうまくいっていて、18ヵ月前までは夫も働いていたというならこの夫婦には潤沢な金があるはずだから、フランスなら通いの家政婦に住み込みの子守り、子供の遊び相手などいくらでも手配できて、それが当たり前だし誰からも後ろ指を指されることがない。夫が無理に仕事を辞めて家事育児をする必要はない。

幼稚園のパーティだからと言っておかあさんたちが何十人分とかの料理を持ち寄らねばならず、

「あら、でも奥様は働いていらっしゃるから出来合いのものをお買いになればよろしいですわね」

風の嫌味を専業主婦ママから言われるなんて、フランス、特に都会ならあり得ない。

ヒロインのジュールスにはそういう罪悪感があって嫌味を受け流せない。

夫に浮気されても自分のせいかもと苦しむ。

それだけではない。

彼女の企業した会社はファッションのサイトで、よりユーザーに訴える画面によって顧客を獲得し売り上げを伸ばした。

購買欲を煽る大量消費主義の申し子で、しかも、「どう見えるか」という外面が強迫観念になって成立するファッション業界。

本人は「7時間寝ないと太る」などという情報に敏感で、夫と別れることになれば一番恐ろしいのは「男がいない」というレッテルと孤独だという。愛がどうとかいうより「世間の目」とスタンダードだ。

自分の育ち方や母親との関係も最悪のようだ。

これだけ「世間の目」の犠牲というか奴隷のような状態で、父親のような男からの承認と包容力を必要としているなんて、何の解決にも問題提起にもなっていない。

こんな展開でデトックス・ムービーなんて。

デ・ニーロはとってもすてきなメリー・ポピンズだしハサウェイもかわいいけれど、本質的にはマッチョな映画で、アメリカって大変な国だなあと思う。

日本の女性はまた別の意味でこれと似た状況なのかもしれないが。

これがナンシー・マイヤーズという女性監督の作品でなければもっと嫌味を言いたいところだけれど。
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by mariastella | 2015-10-14 01:07 | 映画
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