L'art de croire             竹下節子ブログ

スターリンと神

先日TVで『アポカリプス』というスターリンのドキュメント番組を見た。

生映像がたくさんあり、10歳未満視聴不可とあっただけあって、戦争だけでなく殺害、リンチ、収容所、死骸が満載で苦しくなった。

サウジアラビアでの斬首刑と死骸のさらしや、イスラム国の斬首の残酷さが糾弾されるけれど、ヒトラーやスターリンはもちろん、キリスト教に改宗しないサクソン人を一度に4000人殺したシャルルマーニュや聖ルイ王のひどさの頃から時と場合によって人が人を平気で踏みにじるのは変わっていないとも言える。
西部劇で公開の首縛りが出てくるのも野蛮だと思っていたが、このドキュメントでも、ドイツ軍に抵抗しなかったウクライナ人などがどんどん絞首刑になってぶらさがる。

ドイツ軍がロシア(ソ連)を攻める時、ロシア人は人間ではない、殲滅すべき獣だと言われたそうだ。ユダヤ人だけではないわけだ。

逆に、ロシア人たちはドイツ人を悪魔だと思っていたので、スターリンがドイツ軍の捕虜を行進させたのを見たロシア人たちは驚いた。

「普通の人間」だったからだ。

白人たちが、アメリカでインディオに魂がないのではないかとか、アフリカの黒人が人間ではないとか二級人間だと見なしたのと違って、確かにドイツ人とロシア人ではたいして変わらない。

実は見た目は関係がないのだ。

東アジア人同士も殺戮しあったし、自国人同士でも使用人を家畜のように扱う例などいくらでもあった。

人の心理は不思議だ。

ヒトラーによるホロコースト現場を赤軍が映した映像も流されてあらためて胸が悪くなり、チャーチルが

「ヒトラーが地獄を攻めるなら自分は悪魔と同盟するのも厭わない」

と言ってスターリンと手を組むシーンがあるのだけれ、今のウクライナ情勢、シリア、IS情勢におけるロシアと「英米」の立場も考えさせられる。

私がこの番組を見たかったのは、スターリンとロシア正教の関係を知りたかったからだ。

彼の母親は彼が正教の司祭になることを望んでいた。

神学校でゾラとユゴーを読んで革命や社会主義に目覚めたというが、彼の「無神論」がどのようなものであったかは分からない。

正教の信者であった最初の妻とは教会の結婚式を挙げていて、息子にも洗礼を受けさせている。

その最愛の妻に死なれたことがトラウマになったのも神を信じなくなったことと関係しているのかもしれない。

けれども、ウクライナで民衆に歓迎されるシーンで、多くの人々がスターリンに十字を切るのだが、キリスト教を弾圧した後でもそれは大目に見ている。

独裁者はみな、神を信じないのではなくて自分が神になりたいのだ。

そのためには民衆の信仰システムやメカニズムをすごくよく研究している。
「宗教による支配」のノウハウを学びその失敗も学んでいる。

私は「ナポレオンと神」について書いてきたが、「スターリンと神」も似たようなテーマだ。

ナポレオンがフランス本土でなくイタリア語圏コルシカ島出身で「成りあがった」ようにスターリンも、グルジア語圏の出身で一生なまりが抜けなかったという。

では支配者が「神の役どころ」を本気で捨てれば独裁に向かわないのだろうか。

政教分離が徹底しているフランスが神や教会から卒業したかというと、そうでもなくて、「王制」メンタリティに戻っているところがある。大統領は王のようにふるまうし、自治体の市長たちは領主のようにふるまっている。

神なき王は、それはそれで独裁者志向の誘惑にさらされるのだ。

「聖なるもの」のマネージメントは難しい。
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by mariastella | 2015-11-05 03:09 | 雑感
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