何世紀もイタリア人利権の中で悠々とやってきたヴァティカン経済を改革するのが並大抵でないのは当然だ。
ムッソリーニがローマをヴァティカンから奪った時にも、かなりの賠償金が払われた。
それがイギリスとアメリカに投資されて、その利益がヴァティカン市国の財源となったそうだ。
ヴァティカン銀行ができてからは架空口座など作り放題で、マフィアなどの裏金が集まるヴァティカン銀行はスイスやドイツの銀行にとっても大切な客だった。
ヴァティカンにとってその他の大きな財源は、メキシコの「キリスト軍団」とアメリカの「コロンブス騎士会」、スペイン系「オプス・デイ」の三つなどがあった。
オプス・デイの創立者ホセマリア・エスクリバーはなんだかんだあったけれど聖人になった。オプス・デイも属人区になって堂々とローマに本部がある。
キリスト軍団の創立者マルシアル・マシエルの方は、おじや大おじも聖人といういわば「聖人の家系」に生まれて、カトリック教会のために大奮闘した。エスクリバーと同様、カトリックが迫害された時期にレジスタンスとして戦った。
それなのに、全くの二重生活を送っていて、神学生への性的虐待、娘をもうけた女性との同棲をはじめとしてありとあらゆるスキャンダルが出てきて、死後にその事実が確定した。
こういう「大物」の最悪の人物が、大修道会(2010年の時点で867人の司祭、2 262人の神学生を含む。20ヶ国に渡り慈善活動、プレス、教育など社会事業を広げ、国連にもNGOとして認められている)を組織したのだ。
このマシエル事件がベネディクト16世(B16)の退任の引き金となったことは間違いがない。
B16なんて、学究肌で潔癖で清廉潔白な人で本当に気の毒だが、既に存在する莫大な金が動いていることもあって対応が遅かったことは否めない。
ヴァティカンの財務に関わるポストは今回逮捕されたスペイン人女性もそうだけれど、そもそも採用基準や経緯が透明ではない。いつ誰がどんな縁故で配されたのか教皇も把握できないだろう。
JP2(ヨハネ=パウロ二世)、B16から今のフランシスコ教皇まで「非イタリア人教皇」がちょうど3人続いた。
JP2の最初の訪問先はメキシコでマシエルとも会っているし、キリスト軍団の資金はJP2の共産国との戦い、特に故国ポーランドのソリダノスクへの支援に役立っただろう。
すでにマシエルのスキャンダルは耳に入っていたが、ポーランドの全体主義政権で生きたJP2は、誹謗中傷によって味方を分断するやり方をさんざん見ていたので慎重になったのだと言われている。
レーガン大統領との共闘においてもアメリカの白鳩騎士団が活躍したことは想像に難くない。
結局JP2もB16もなし得なかった「改革」、まさに言葉通り「聖域なき改革」に手をつけると宣言したフランシスコは、実際、コロンブス騎士会のジェブ・ブッシュなどをはっきり敵に回してしまった。
彼が教皇宮殿に住まず食事も絶対にひとりでとらないことにしたことについて、毒殺のリスクが減るから正解だ、と語る関係者もいる。
昨日の記事のルネ・ジラールの言葉ではないが、キリスト教の根本の清貧を貫いて生きるのはやはり革命的なことであって、いつ粛清されてもおかしくない危険をはらんでいるのかもしれない。