L'art de croire             竹下節子ブログ

11/13のフランスのテロとカトリック教会

今回のパリの多発テロの翌日、パリ大司教をはじめとしてフランスの司教たちがそれぞれメッセージを発信した。

フランシスコ教皇と同じく、野蛮で非人間的なテロを糾弾し、死傷者やその家族に哀悼の意を表するものだ。

犠牲者には天国の扉が開かれるように、しかし怒りの感情を憎悪や報復に向けることなくすべての人間の共存を願う神のみ旨に従って平和的解決への希望を決して捨ててはならない。
狂奔と憎悪を避けよ。
心を堅固にして平和のために連帯すること、諸宗教間、異文化間の対話が一層重要である。

とまあ、ここまでは、イエス・キリストがコメントを求められても似たようなものになると想像できそうな「正しい」コメントだと思う。

午後6時半からはノートルダム大聖堂での慰霊ミサがあり、パリ中(フランス中 ?)のすべての教会の鐘が鳴らされるという。

犠牲者の中に反教権主義の人とか無神論者とかムスリムとかあるいは単に無宗教の人たちもいると思うけれど、そこは、しかるべき時には「カトリック教会の長女」を自負するフランスのシンボルであるノートルダム(フランスの筆頭守護聖女)大聖堂をちゃんと共和国財産にしているから、「連帯」に使えるわけだ。

今年1月のテロは、無神論を標榜してカトリック教会の誹謗も熱心にしていたカリカチュア雑誌やユダヤ人コミュニティが標的だったから、司教区主導の追悼ミサはもちろんあったけれど、共和国がそれを強調することはなかった。

今回は無差別に「フランス」が襲われたという認識なので、ノートルダムが注目されている。

もちろん、数カ月前にカトリック教会を標的にしたテロが事前に発覚したという事情もあるので、厳戒態勢になるはずだ。
ノートルダムのミサ中に自爆テロなんてことになったら大変だから、「出席する人は事前に告解とかしなくちゃ入れてもらえないんじゃない ?」と想像したくなる。後でTV中継を見てみよう。

さて、ここで書きたかったのは、数ある司教談話の中で、トゥールーズのロベール・ル・ガル司教の言葉に注意をひかれたからだ。

テロと言えば、「テロル」の文字通り、「恐怖」を煽る暴力の行使だけれど、ここで、その挑発にのってはいけないというのは分かる。
人々が恐怖にかられて判断力を狂わせたり思考停止に陥ったりすれば、後は支配者が全体主義的なカウンター暴力を繰り出しやすくなる。

そのような環境では「自由の制限」とその受け入れがはびこりやすくなる。

かといって、自然な感情や恐怖を抑圧したり、ないものとしたりするのはなかなか難しい。

そこでル・ガル司教は、la peur que vit le pays depuis de nombreux mois soit « un aiguillon pour mener chaque Français à la paix et que notre pays soit plus uni que jamais face à l’adversité et au mal »と言う。

つまり、

「国に蔓延するこの恐怖が、国民一人一人を平和に導き、国が一体となって逆境や悪に向かうトゲとなりますように」

というのだ。

この「トゲ」というのはもちろん、新約聖書のパウロの「コリントの信徒への手紙2」の中(12, 6-10)にある有名な言葉だ。
パウロはキリストに結ばれて天に引き上げられて楽園を見た、ようなことをにおわせ、それを誇らずにはいられない、と、少し「どや」風味を披露するのだが、その後で、いかにもキリスト教的逆説が起こる。

>>仮にわたしが誇る気になったとしても、真実を語るのだから、愚か者にはならないでしょう。
だが、誇るまい。わたしのことを見たり、わたしから話を聞いたりする以上に、わたしを過大評価する人がいるかもしれないし、また、あの啓示された事があまりにもすばらしいからです。
それで、そのために思い上がることのないようにと、わたしの身に一つのとげが与えられました。それは、思い上がらないように、わたしを痛めつけるために、サタンから送られた使いです。
この使いについて、離れ去らせてくださるように、わたしは三度主に願いました。すると主は、
「わたしの恵みはあなたに十分である。力は弱さの中でこそ十分に発揮されるのだ」
と言われました。
だから、キリストの力がわたしの内に宿るように、むしろ大いに喜んで自分の弱さを誇りましょう。
それゆえ、わたしは弱さ、侮辱、窮乏、迫害、そして行き詰まりの状態にあっても、キリストのために満足しています。なぜなら、わたしは弱いときにこそ強いからです。<<<

パウロはが「わーい、ぼくって特別に選ばれたもんね」と傲慢にならないように「とげ」が与えられて、それを何とかして取り去ってくださいと、三度も神に頼んだのに、「今ある恵みでがまんしなさい、とげのない最強の状態になるとろくなことはないから」みたいなニュアンスで諭されたので、納得して受け入れたという話だ。

この「とげ」が何を表すかというのは古来議論されてきた。

「冒瀆」の言葉を吐きたいという誘惑だとか、、キリスト教徒を迫害する側だった自分の過去への後悔の念というのもあったし、カシアヌスはそれが「肉欲」の誘惑だと解釈した。
パウロが遭遇した宣教上の困難そのものを指すという解釈もある。
多くの人は、それが肉体的な不調だと考えている。
不屈の意志にふさわしくない屈辱的な持病で、そのために休息を余儀なくさせられるような痛みを伴うもの、時々悪化する慢性病のようなもので、バルナベとの宣教の旅の時にもそれをにおわせていると言う。

で、

「主よ、私はあなたのために福音宣教しているんですよ、その妨げになるこの痛みを何とか取り去ってください、それがあなたのためにもなるのですから」

みたいな感じで主に頼んだのに、

「それはダメ、それ以上健康になる必要はない、今与えている恵みと力で十分だ、私の力は、それを伝えるツールの弱さの中でいっそうはっきりと現れてくる」

という感じであえなく断られた。

ル・ガル司教は、フランス人がテロリストに煽られた恐怖を憎悪に変えたり自由を引き換えに絶対安全を求めたりするのではなく、また、なかったことにして無視するのでもなく、「平和を実現するためにかかえるトゲ」となりますように、と言ったわけだ。

これ以上は解説しないけれど、これはすごくキリスト教的叡智だと思った。

テロリズムがどうとかいう以前に、あちらが痛い、こちらが不都合、とあらゆる「トゲ」抜きにのみ精力を費やすことの是非や、あるトゲが「恵みを生かす」トゲなのかどうかの見極めの必要を含めて、私にとってはなんだか力をもらえる言葉だった。

で、おすそわけです。
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by mariastella | 2015-11-16 01:45 | 宗教
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