L'art de croire             竹下節子ブログ

フランス・テロについての日本語の記事に驚いたこととシャルリー・エブド

フランス・テロについての日本語の記事に驚いた。

その1 : あるブログに引かれていたこういう文。

>>日本はキリスト教国でもイスラム教国でもないのに、積極的にコミットしてキリスト教十字軍の一員とみなされれば、日本人の犠牲者を出すという代償を払うことになります。実際、それで日本人の人質が殺されたじゃないですか」(元外務省国際情報局長の孫崎享氏)

こ、これはひどい言い方だ。例の単純な「一神教同士の戦いに巻き込まれたくない」というタイプの言説。

フランスが正義の味方ぶってアフリカや中東に介入したり空爆したりしているのは事実だけど、政教分離共和国の意地にかけても絶対に「神のご加護を」なんて言わない「罰当たりな」国だから、アングロサクソン国と混同されたくない。

それにイスラム教国とキリスト教国が戦争しているわけではないし、イスラム教とキリスト教が戦争しているわけでもない。

経済格差や資源搾取や大国や石油王国やマルチナショナル企業のエゴや覇権主義や偽善も含めて背景は複雑で簡単には言えないけれど、少なくともあまり変なことを「偉い人」に行ってもらいたくないなあ。

その2 : 小田嶋隆さんのエッセイ

これを読んで驚倒した。日本で日本人がネット上で「対話路線」とか言うだけで批判されるとか、メディアや世論のあり方が変わるとか異様な空気が支配するとか、本当なのだろうか。

きっとアメリカが9・11のトラウマのせいで盛り上がっていて、そのアメリカ・テイストの情報が日本で流れているからそうなるんだろうか。

そういえば10年ほど前の「移民の子弟の暴動」騒ぎの時もアメリカのFOXニュースとかが大騒ぎしていたのを思い出す。

19日、3ヵ月の非常事態宣言が可決されたけれど、与党の中ですら反対票を投じる議員がいたし、「プレスの制限、統制」は否決された。

こんな時に「表現の自由」を制限したりしたら、1月のシャルリー・エブドの時の鼻息はどうなったの、ということになるからまあ当然だろう。

空港などのチェックについて厳しくなったり家宅捜査や尋問がしやすくなったりするというのは分かるが、「過去のテロ事件で刑務所にいて刑期を追えて釈放されている人に居場所確認のためのチップ付きの足環をとりつけることができる、ただし本人の合意がある場合に限る」などという項目にはほとんど笑える。

戦争モードで息巻いている人ももちろんいるし、それを利用する人もいるけれど、批判的な人も普通にいるし、別の呼びかけをしているムスリム系哲学者もいるし、一応マジョリティ宗教であるカトリック教会も「平和解決」が公式見解だから、全員が深刻な顔をして「十字軍」って言わなきゃ非国民扱いみたいな空気など逆立ちしてもあり得ない。

フランス人ってシニカルで天邪鬼で、他の人と違う意見を言うのを遠慮するということもない。
警官が非番でも拳銃を持てるようになりそうなことを批判する人もたくさんいる。

イマジンだって演奏されるし、お笑い番組やステージやジョークも再開されている。
19日にはしっかりとボジョレー・ヌーヴォーの解禁を楽しんでいる人たちがパリのバーやレストランにいた。
20日の夜はレストランに食べに行こう、と元文化相のジャック・ラングや歌手のシャルル・アズナブールらが呼びかけている。

火曜ぐらいまで閉めていた音楽院だとか映画フェスティヴァルを中止した場所は確かにある。

私のアンサンブルも練習場所を私の家に変更したけれどその後でいつも通りみんなでレストランに行って議論した。
その夜、中止がサイトに告知されていなかったので、近くの映画舘に楽しみにしていたイラン映画を観に出かけた私は無駄足を踏んだけれど、映画に行くのを自粛しようなどとはちらりとも考えなかった。
そういう意味では「若者の暴動」みたいな方が怖い。

政府主導の犠牲者追悼セレモニーは来週金曜にアンヴゥリッドで行われるそうだ。
廃兵院で軍事博物館でナポレオンの墓があるところだから「戦争」モードの政府の選択としてはぴったりだ。上下両院を集めての大統領演説はヴェルサイユ宮殿だったし、王でも皇帝でも栄光と「戦勝」記憶のあるものは何でも使おう、というところだ。

非常事態で過激派モスクやイマムが捜索されたり逮捕されたりするのは納得がいく。
それは見込み捜査などではなく、彼らの多くは過激な教えを堂々とネット映像で流しているからだ。
10歳くらいの子供たちを集めて、楽器は悪魔、音楽を聴くと猿か豚になる、豚肉を食べると豚になる、と教えている動画もある。猿や豚に失礼だ。
(今日の午後は弦楽カルテットの練習に行った。「モーツアルトはやっぱ癒してくれるよね」「モーツアルトって豚だよね」とかジョークを言いながら、そういえばヴァイオリンが教会の中で禁じられていた時代があったよなあと思い出す)

こういうイマムをフランスでも放置していたのは大問題だと思う。
空港の職員のロッカーが捜索されたというのは何となく嫌だ。コーランや祈り用の絨毯は発見されたというのだが、そして今回のテロリストがバスの運転手をしていたという事実もあるのだけれど、ムスリムだというだけでチェックされるようになるのは困る。

でも今回はシャルリー・エブドの時とちがってムハンマドのカリカチュアがどうだとかいう話がないから、フランスの一般ムスリムがどんどん声を上げ始めている。いい傾向だ。

難民の意見も大新聞に載っている。

つまり、フランス中が恐怖や自粛や疑心暗鬼に陥っているということはない。
ものまねユモリストは内務大臣の発表などをジョークにしている。
テンションをガス抜きできる場所はたくさんある。カリカチュアも全開だ。

今回のテロについてのシャルリー・エブドの表紙はこれ

「やつらには武器がある、それがどうした(糞くらえ)、僕らにはシャンパーニュがある」

という若者がシャンパーニュを飲みそれが体中にあいた穴から噴き出している。

うーん、ブラック・ジョークというか、シャルリーエブドが描くと強烈だ。「そろって片足の膝から先を失った女たちがフレンチ・カンカンを踊り続ける」という絵もあった。
テロの標的は民衆全体の「脳」だ、脊髄反射で憎悪や恐怖や報復に向かわず頭を使おう。考えることがすぐに解決に結びつくわけではないが、「考えること」がレジスタンスの最初のアクションなのだ、という記事もあった。

そう思うと、フランスのテロについてさえ「公式の正義」と違うことをなかなか言えないという日本のような国でテロだの暴動だのが起きたりするのは本当に怖い。

天災だと「悪者」を見つけるのが難しいからまだましだけれど、戦争、戦時体制ということになればさぞ悪夢が始まるだろう。それこそ亡命したくなる。

(あ、あすから数日、旅行に出かけるので久しぶりにブログ更新をストップしますが、テロに巻き込まれたのかもなどとまさかの心配をしないでくださいね。駅の検問とか特急の検問とか面倒そうだけど…。前からのプランなのでキャンセルなどという考えはありません。私が切符を持っていた旅行をキャンセルしたのは3・11の後の日本行きだけです。余震だの放射能だのは検問できないし、交通機関が途中でストップするのが不安でした。あの頃はほんとうに一月くらいネットにはりついてました。もし日本に大規模テロが起きたとしたらフランスにいても同調パニックを起こすかもしれないなあとも思います。では。) 
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by mariastella | 2015-11-21 01:08 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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