L'art de croire             竹下節子ブログ

参謀総長が正論を言える国

2011年の5月末、東日本大震災被災者のためのチャリティコンサートをコンコルド広場の海軍参謀本部のサロンで開いた。

参謀総長の海軍大将は心から最大の援助をしてくれた。

協力してくれた海軍の他の組織の人たちがヒエラルキー意識から逃れられないのとは対照的に、実にシンプルで人間的だった。

その後で、アフガニスタンに派遣されていた軍人ブリス・エルブランの書いた戦争のトラウマについての本についてもブログで触れたことがある。

アメリカ軍と違ってフランス軍の攻撃の規制が厳しいこと、それでも人を殺したことがトラウマになってそのことを現役士官が出版し、なんの検閲もされない、ということのフランスらしさが気に入った。

昨年11月のパリの無差別テロの翌日にすぐに防衛大臣に呼ばれ、2日後に空母シャルル・ド・ゴールに乗った参謀総長ピエール・ド・ヴィリエ将軍は、その1週間後の新聞インタビューで「軍隊はISに対する勝利をめざすものではない」と言った。

テロの後ですぐに「総力戦、IS壊滅」のような勇ましい言辞を発したのは政治家の国内向けの姿勢であるが、実際はそのような短期戦はあり得ないし意味もない、ということだ。。

それについてさらに、今年の1/20付の『ル・モンド』紙で堂々とこう言っている。

「フランスの戦略は完全に国内政治によってなされている」

「戦力は必要だとしても充分であることは絶対にない。戦争に勝つことと平和を獲得することは別物である」

さらに、

文明的な軍隊は、正統性や魂を失わずして倫理的な縛りを侵すことはできない

とまで言う。

つまり軍隊の魂や正統性は倫理的縛りによって担保されているということだ。

「テロリストを前にして、ミメティスム(擬態)に陥らぬようにきをつけなければならない。」

とも。

すごいなあ。

ヴァルス首相が空爆強化反対派に対して

「(この非常時に際して自由・平等・博愛などの)大義をかざす者たちは我々が戦争中だということをお忘れのようだ」

みたいに揶揄するのとは大違いだ。

ピエール・ド・ヴィリエという人は、貴族の出の保守政治家で大統領選にも出たことのあるフィリップ・ド・ヴィリエ(子爵)の8歳下の弟にあたる。

この二人とも、ちゃんと共和国エリートコースを歩んでいるから、頭がいいことは間違いがない。

フィリップ・ド・ヴィリエはまあ、いろいろある人なのだけれど、弟がそれにも染まっていない?ようなのもフランス的個人主義のいい面かも知れない。

なんだか軍国主義的な方向に向かいつつありそうな最近の日本だけれど、こんなことを軍のトップにいる人が一流新聞の記事に堂々と書くことが起こるなど想像できない。

オランド大統領の非常事態宣言もメディアの自由には手をつけられなかったし、妙な自主規制もメディアの側にも軍人にもないようで、フランスの国のこんなところは好きだ。
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by mariastella | 2016-01-29 04:44 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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