キューバのラウル・カストロが経済封鎖解除後はじめての外国訪問先にフランスを選び盛大に迎えられた。
フランスはキューバにとって最大の政治的パートナーであり得るそうなのだ。
キューバに対しては観光、貿易に関するマーケットとして色気満々のフランスだが、先日イランの大統領が来た時には大量の飛行機を売りつけ、キューバ、イランというおいしい市場にしっかり存在感を植え付けている。
この2ヶ国がフランスを特別扱いしているのは事実で、その理由の一つはアメリカに対する牽制で、もうひとつがフランスをヨーロッパの窓口と見なしていることだ。
アメリカとフランス言えば国力にはすごい差があるのだけれど、シンボリックには拮抗している。
それはサウジアラビアでも感じたことだ。サウジがマメにフランスの軍事技術を導入し続けているのは、アメリカ一辺倒ではないという姿勢を自らにもアメリカに対しても確認させるためだった。
地政学的に言っても、アメリカとヨーロッパの両方と関係を持っておくのは多くの国にとってリスク・マネージメントの意味を持つ。
ヨーロッパといっても、イギリスではアングロ・サクソンの同類だし、ドイツも英語と同根のゲルマン語圏だし二度の大戦の敗戦国なので政治的権威は微妙なところがある。
その点フランスなら、ヨーロッパの真ん中でラテン語圏である上に。アメリカに対しても独立戦争の時に助けてやった、近代革命の同志、みたいなことを根拠にして臆しないので、シンボルとして使い勝手がいいのだ。
フランスでは共産党も長く存在感があったし、伝統的に左翼シンパでキューバに親近感がある。
イランに対してはイスラム革命前にホメイニ師の滞在を認めていた。
大切な経済パートナーでもあった当時のイランの王制が危機に瀕しているのを知っての革命後のアリバイつくりの意味もあったろうし、「王制を倒す」とか「革命」とかにシンパシーがある国柄だからでもある。
当時のフランスではイスラム革命の意味をだれも把握していなかったのだ。
で、今さらそれ(結果的にホメイニに便宜を図ったこと)をあまりはっきり言うのはまずいので黙っているが、下心としては、「ホメイニも信用して頼った国」オーラをイランに対して発揮しようとしている。
どちらの国に対しても、主として経済効果をねらって動いているわけだけれど、イランにもキューバにも巨大すぎるアメリカを牽制するシンボルとしてフランスが機能しているのはまちがいがない。フランスはそれをちゃんと自覚している。
フランスにずっと暮らしていると、日本と同じで、もういまや「衰退途上国」という暗い感じになるのだけれど、こういうのを見ていると、独特の「存在感」を利用する腕は衰えていない、という感はある。