L'art de croire             竹下節子ブログ

パリの農業サロン

フランスで最もフランスらしい「農業サロン」が今年もパリで開かれているが、今年は規制緩和をめぐって特に畜産農家の不満が爆発し、借金のための自殺者も続出する中、初日の開場前に訪れたオランド大統領は参加者から背を向けられたり野次を飛ばされたりしてさんざんだった。

大手スーパーなどに買い叩かれることもあって、何を出荷しても赤字になる農家は危機に瀕している。

EUでフランスの農業についての特例を認めさせて人気だったシラク大統領の時代は遠い過去のものとなり、ワインも飲まないので不人気のサルコジ時代を経て、どちらかと言えば人気のあったオランドなのに今年は逆風が吹いている。
チーズとワインという組み合わせフランスパンも含めてフランスの食文化の誇りでありアイデンティティでもある畜産農家の参加はサロンの花だ。その彼らが悲鳴を上げている。

ドイツなどでは500頭の牛に従業員2人という農場があり、すべて機械化、監視カメラ、デジタル化されて、人間が必要なのは牛の病気かお産の時だけだそうだ。

昔ながらのフランスのやり方では価格競争にとうてい太刀打ちできない。

サロンに牛を連れてくる人たちはいとおしそうにブラシをかけてコンテストに備えたり、鳴き声のコンクールをしたり、その愛着は伝わってくる。

このサロンに去年はフランスの国民の1%が足を運んだそうだ。

サロンについてのクイズ10題というのをネットで見つけて、試しにやってみたら、私は10のうち2つしか正解しなかった。3択だからせめて3つは当たってもよさそうなのに、この分野についての自分の無知にあらためて感心する。去年の入場者については0.1%と答えてしまった。)

それとは別に、つい最近、屠殺場の従業員が牛を感電させている映像がウェブに流れてスキャンダルになった。

作業の一環ではなくて、苦しめて喜ぶただのサディックな行動である。

グアンタナモで捕虜が拷問されたり非人間的扱いされたりしていたのが表に出るよりもリスクが少ない。

動物だし、どうせ「殺され、食べられるために」育てられ、殺されるために屠殺場に来ているのだから、ということで。

この話を聞いて暗澹とした。

今は何でも、簡単に撮影されたり録画されたりしたものが流出するから表沙汰になるけれど、

考えたら、「殺す」ことに特化された場所が存在し、そこで働く人がいること自体が衝撃的だ。

害虫やネズミの駆除ならまだ「異種」感があるけれど、牛たちは農場では飼い主たちが名前をつけブラシをかけ手塩にかけて大きくしてきた。

でも動物園ではないから、食肉用のものもあれば、オスの子牛はすぐ殺されるし、乳牛も乳を収穫できなくなったら、手厚く世話されて余生を過ごす、というわけではないだろう。

で、いったん屠殺場に送っても、苦しめないで殺さなければいけないとか、ストレスを与えると肉がまずくなるとかもあって、その屠殺の仕方はいろいろ制限されているのだけれど、それでもときどき違反が摘発され、動物擁護団体は怒りの声をあげる。

でもそのような屠殺のシステムやその経済合理性とは別に、そういう場所にたとえ例外的にでもサディックな人間が職を得たとしたら…。

家庭や施設の中で子供や老人や病人など弱者への虐待がばれれば大事件だし、犬や猫の虐待に向かってもリスクは大きい。でも屠殺場で牛を虐待するなら、大きいので「やりがい」を得られるかもしれないし、自分で撮影してウェブに流すなどというバカなことをしない限り、安泰だ。

ひょっとして、肉食国の屠殺場の長い歴史の中には、サディズムの実践を満喫してきた人たちがいたかもしれない。

多分、いただろう。

そう思うと怖い。

私は子供の頃、鶉の卵がどうやって収穫されているか(自由を拘束され過密なところで人工照明によって夜を作らずに卵を産み続けさせる)を知って、鶉の卵を一切食べなくなったことがあった。フォワグラは好きだけれど、シーズンになると反対派によって繰り広げられる鴨の脂肪肝を作る残酷シーンを見るともちろん喉を通らなくなる。

私の周りのごく近い人にもラディカルな非肉食主義者がいる。
親しい畜産農家もある。

私も屠殺場の存在など考えたくない。
魚だって尾頭つきが怖いと思うこともあるくらいだ。

でも、屠殺場はあるし、漁をする人も畜産する人もいる。

すべてが完全に機械化されるなら、「非人間的」だから愛着もないがサディズムや虐待もなくなることだろう。

食物連鎖の中で「人間性」というのはプラスにもマイナスにも働くし、食文化も生まれれば、食にまつわるあらゆる倒錯も生む。

まるで動物園のように家族連れが楽しそうに牛や羊や鴨のブースを訪れる農業サロンのニュースを今年はのんびり見過ごすことができないのはなぜだろう。
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by mariastella | 2016-02-28 02:23 | 雑感
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