L'art de croire             竹下節子ブログ

トランプとクリントンの勝負になったら?

私はアメリカの大統領選をいつも宗教的集合無意識みたいなものを通してながめる癖がついている。

WASPを破ってはじめてアイルランド系カトリックのケネディが出てきた時の偏見のすごさを知って驚いて以来だ。

20世紀末の時点では、ヒスパニックが増えたこともあってカトリックはもうタブーではなかったけれど、黒人、同性愛者、無神論者の順で大統領になり得るマイノリティという統計があった。

「女性」がどこに位置づけられていたか、あるいはアンケートの項目にあったのかどうか覚えていない。

で、オバマとヒラリー・クリントンの対決の時に、今回トランプを支持しているKKKがオバマを支持したのに驚いた。
つまり、KKKのような人種差別グループが「女よりは黒人でも男の方がまし」だと表明したわけだ。

オバマは父親がムスリムで、ムスリムの父親を持てば自動的にムスリムと見なされるということで、何度もムスリム・スキャンダルに見舞われた。父親は実際は無神論に近い無宗教的な人だったそうだが、それもアメリカ的公正」としてはまずい。

実際は、ハワイやインドネシアの幼少期を通じてカトリック系小学校に3年通ったり、キリスト教徒もムスリムも受け入れる学校で学んだ。シカゴに来てから、聖公会の信徒となって「自分で選択した宗教」であり、「深い信仰を持っていて、インスパイアされている」と公言し、ホワイトハウス近くのセイント・ジョン・エピスコパル教会のミサにたまに出たり、家族で過ごすハワイのバカンスでもミサに出ている姿をアピールしたりしている。

だから、オバマは黒人のハーフであるが所属としてはアングロ・サクソン系の敬虔なクリスチャンで「神のご加護」をアメリカに祈っているので「女よりまし」だったのかもしれない?

ヒラリーはメソジストで、彼女のことを宗教的だと思う人と思わない人が47から48%で拮抗している。

トランプは「自分ほど聖書をよく読んでいる人間はいない」などと公言している長老派プロテスタントだけど、「宗教的じゃない」という人が60%だそうだ。

ま、それでも「所属」が大事なのだろう。

それを思うと、バーニー・サンダースはユダヤ系で、「無神論者で社会主義者」と自称しているのだから、その手の人はあとひと世代は経たないと、アメリカの大統領にはなれないかもしれない。

今回はまだ、「無神論者の男」よりは「WASPの女(自伝では母方の祖母の家系はフランスやカナダ、アメリカ・インディアンの血も入っていると多様性?を強調しているが)」の方が「まし」ということになるのだろうか。

このアメリカの無言の宗教所属による階層付けは、イギリスやドイツはもちろんインド、パキスタン、フィリピン、韓国などで女性リーダーがちゃんと出ているのと比べてもかなり根強いものだと見てもいい。

イギリスやドイツはキリスト教内の宗教戦争を経た国でカトリックとプロテスタントの間の相克や分裂を乗り越えたのでタブーが薄まったのかもしれないが、アメリカはWASP(の男たち)による神の国建国の神話が生きているのだろう。

(フランスでは宗教所属を出すのはマイナスに働く。女性が出にくいのはラテン系の心性なのだろうか)

インド、パキスタン、韓国の女性リーダーたちはいずれも首相や大統領だった父親の跡を継いだ形で、フィリピンのアキノ大統領も暗殺された夫君の遺志を継ぐ形なので、これらの国は意外と、宗教や思想のタブーよりも、血縁とか人脈が女性差別よりも強いのだろう。

でもパキスタンの女性首相は後に暗殺されているし、実情はなかなか厳しい。

日本でも有力男性政治家の票田を継ぐ娘の政治家はいるが、今の天皇制が女性天皇不可であるのと連動して何となく女性が首相になる道は険しそうだ。

話をアメリカに戻すと、トランプが本格的に「優勢」になってきたことにあせって、前回の候補者だったミット・ロムニーなどが警鐘を鳴らしてあんなほら吹きが候補になったら笑いものだ、みたいなことをあわてて言っているが、モルモン教の信徒に言われても…と思う人はいるかもしれない。

モルモン教は「アメリカ建国のプロテスタント」とは関係がなくそれらの各派から異端認定されている「キリスト教系新宗教」だし、所得の高い人が多いからプア・ホワイトやヒスパニックの人気を得るのは難しい。

それにトランプがいくらほらを吹いても、また彼の言辞がいくら今までのピューリタン的政治的公正を欠いているとはいっても、「選挙公約でほらを吹く」こと自体は世界中の「民主主義国」でほぼ「常識」というか普通ではある。

いわゆる反知性主義の「ネタになる」ことを言うのでスキャンダラスに取り上げられるけれど、むしろ極端なテーマを掲げることによって、本当に大統領になったらゆっくりとネゴシエートして、少しでも公約に近い側の答えを引き出す、程度のプラグマティズムだとして受け止めている人も多い。

それはそうなのだろうな、と思う。

先日の記事にも書いたローマ教皇への露骨なリップ・サービスも含めて「分かりやすい人」ではあるので、偽善と軍産共同体の利権が渦巻くアメリカのニュースの中では肩の力が抜けるキャラクターだ。

しかし、トランプもクリントンも60代終わりでこのエネルギーというのは、それだけで圧倒されるなあ。
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by mariastella | 2016-03-06 00:15 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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