L'art de croire             竹下節子ブログ

パリのテロとヘミングウェイの『移動祝祭日』

11月のパリ同時多発テロから、4ヶ月、ベルギーに逃げていた実行犯の一人がようやく逮捕された。なかなか見つからないので、シリアのISに戻ったのでは、などとも言われていたけれど、結局、当初から見当づけられていた地区に潜伏していた。自爆用のベルトを捨てて逃走していたので、シリアに戻っても制裁されるんではないかと思っていたが、昔からの仲間に匿われていたようだ。

そのニュースのおかげで、この 4ヵ月で変化したこと、があちらこちらで語られている。

その一つに、パリのカフェやコンサートホールがねらわれたことに対するレジスタンスがあり、冬の間もパリの下町のカフェのテラスには人がたくさんいた。

で、そのレジスタンスの一環なのか、テロ以来、よく売れた本の一つがヘミングウェイの『移動祝祭日』なのだそうだ。

そのニュースであらためて、このヘミングウェイの本のフランス語のタイトルが

『Paris est une fête』だということを思い出した。直訳すると「パリはひとつの祝祭である」と文章になる。

私がはじめてこの本を読んだのは1965年版の三笠書房のヘミングウェイ全集の第八巻だ。

当時の日本は、祝祭日はすべて固定していたから、「移動祝祭日」という言葉自体が新鮮だった。

春分後の最初の満月の後の日曜日が復活祭で、そこから数えてイエスの昇天祭や聖霊降臨祭が決まるので毎年変わるというキリスト教のカレンダーとは縁のない生活だった。

それでも、

「もし、きみが、幸運にも、青年時代にパリに住んだとすれば、きみが残りの人生をどこで過ごそうとも、パリはきみについてまわる。なぜならパリは移動祝祭日だからだ」

という巻頭の言葉は、印象的だった。

この言葉は、この本を読んだ10年後にパリに発った私に「ついてまわった」といっていい。

で、英語の原題は A Moveable Feast で、確かに移動祝祭日なのだけれど、毎年日にちの代わる祝日というより、「きみについてまわる」祝日というわけで、そのフランス語訳が、端的に「パリはいつもお祭り」、祝祭都市パリ」のようなものだったわけだ。

で、去年の11月、外国人もたくさん含む若者たちや人々ががカフェのテラスで飲み食いしたり、ロックのコンサートに行ったり、サッカーを観戦したりするパリの自由な雰囲気をテロリストに破壊されたことに対する抵抗、何があっても、パリで楽しむことをやめないぞ、という決意をした人々の頭に、ヘミングウェイのこの作品が浮かんだらしい。あるいは「パリはお祭りだ」とネットで検索してはじめてこの作品を発見した人もいるのだろう。

冬のパリでもカフェは店の外側に火鉢を置いていてテラスで暖をとることができた、とヘミングウェイは書いている。

もうすぐ、春になる。

復活祭も、すぐ、そこだ。
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by mariastella | 2016-03-19 23:42 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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