L'art de croire             竹下節子ブログ

枝の主日とアレッポの教会

今週は、復活祭前の「聖週間」。パリの各地で各種の「受難曲」のコンサートがある。

今年の春分の日曜は、イエスが過越し祭のためにエルサレムに入城して、人々がナツメヤシの枝を手にして歓迎したという「枝の主日」だった。

聖週間にはその他に、「最後の晩餐」の聖木曜日、十字架刑で息絶えて埋葬された聖金曜日、墓が空になって復活した復活の日曜日とそれに先立つ土曜夜の典礼など、いろいろなものがある。

ヨーロッパのカトリックでは中世以来、この「ご受難」の追体験が盛んだし、「枝の主日」もすでに受難がテーマで、最後の晩餐から死の様子までの福音書の記述が読まれるから、なんだか早々と喪に服するような感じもする。

去年の聖母被昇天祭にネットで調べて行ってからお気に入りの19区の聖母被昇天教会の枝の主日に参加してきた。

ここはあの元気満々のルヴェリエール司祭だから、さぞや喜びに満ちたものかと思っていた。

しかしイエスに先導されるという演出に凝っていて、なかなか教会の中に入れてもらえない。
イエスのエルサレム入城に付き従ってみんながわいわいと行進するという形だ…(実際はラテン語の歌と共に)。

空は曇っていて寒い。
これだけ外で待たされたら、ようやく教会の中に入れる時は暖を求める心が踊る。
うまくできてる。

でも、エルサレムって絶対こんな気候じゃないから、これってひどいよなあ、と思う。

教会前の広場をいっぱいにしてるのを見ても、金曜日にパリの通りでイスラム教徒が座り込んで祈りを捧げることを批判している人たちのことを思い出してしまう。

まあ、枝の主日は年1回で、ムスリムの祈りは週1回、厳密には日に5回だしなあ、伝統行事としてのキャリアも違うし、あ、でも、フランス革命の時代は全部禁止されたっけ…などといろんなことが頭をよぎって、全然「敬虔なきもち」になれない。

それでもこの日が楽しいのは、各自が手にした小枝に聖水を振りかけてもらうイベントがあるからだ。

フランスでは基本が柘植の小枝である。

この時期に簡単に手に入る常緑樹だからだろう。
一昔前は柘植以外見たことがない。

でも、今はエキゾティックな観葉植物も簡単に手に入るから、そして、フランス以外から来る信者も少なくないから棕櫚の葉を持ってくる人もたまにある。

で、私はうちにあるヤシ科のフェニックス・ロベリニーの小ぶりの葉と、柘植の小枝わりに朝鮮人参イチジク盆栽の小枝を切って行った。

教会前の広場では柘植の小枝がテーブルの上に山と積まれて販売されていた。近頃はどこでもこんな感じのようだ。

昔は自分で持ってきたものなのに。

で、後で家族に分けるためか、枝をいくつも束ねて持っている人は多いのだが、私のようなフェニックス・ロベリニーを持っている人はいなくて、なんだか恥ずかしいのでコートの下に隠していた。

でも、教会側は、ちゃんと二つの大きな鉢植えのフェニックス・ロベリニーをこの日のために(?)常備していて、特大の葉が10本用意されている。
イエスが死者の世界を訪れた土曜日ではないのに行列の十字架も紫の布で覆われている。(教会の中も、十字架、聖母子像などすべて覆われて、その代わりにヤシの葉が十字に組み合わせて配されていた。)

「はーい、お持ちの枝を掲げてください」

ということで、聖水をかけたヤシの葉を司祭がぶんぶん振り回してみんなの枝を「浄めて」いく。

柘植の枝の中で、私のフェニックス・ロベリニーは目立つかなあ、と思いながら掲げていると、聖水が一滴、右目の中に入った。

先月手術したばかりの目…。

まあ、聖水だからいいか。

これが手術前だったら、聖水が入ってたちどころに視界がくっきり、視力回復という奇跡が起こったかもしれないのに…。
いや、手術前はコンタクトレンズを入れていたのだから、聖水がレンズについたら非衛生だからあわててレンズを外す羽目になったかもしれない。

まあ、何も起こらず、帰宅してから一応洗眼しておいた。
祝別されたフェニックス・ロベリニーは、猫ズに猫じゃらしと間違われないように(実は前にこの葉であそんでやったことがあるので)、猫の来ないところに隔離する。

ルヴェリエール司祭はあいかわらず、演出力もあり、思い入れも強く、声もよく、すべてを謳いあげるのもいい。

よく、カリスマ司祭の説教だとか、あるいは福音派のミサの派手な演出とかについて見聞きするけれど、確かに、エネルギーにあふれた司祭が盛り上げる典礼は飽きなくていい。

でもこういうタイプの司祭にあまり「告解」とかしたくない人も少なくないだろう。
幸いこの教会にはサレジオ会の引退司祭ジャック神父がいて、落ち着いて温厚そうな感じがルヴェリエールさんと絶妙の対比をなしている。

福音書を読む時も、ルヴェリエール司祭がイエスの台詞をうけもち、その他にピラト役、、ペテロ訳、地の文など、4人でちよっとした受難劇風に仕立てたところもおもしろかった。

それでも、聖母被昇天の日や献堂式などに比べてやや疲れている感じがしたのは、四旬節の間に断食とかして犠牲を捧げたからかもしれない。彼ならたっぷりやりそうだ。

でも今年の枝の主日で一番印象的だったのは、twitter(tweet de Bahar Kimyongur)から拡散された、シリアのアレッポのカテドラル(?)に集まった人々の写真だった。ISの支配下で荒廃した都市にもまだ教会もあり、典礼もあるのだ。

ヨーロッパよりも古い初期のキリスト教宣教地であるシリアにはいろいろなキリスト教の宗派がある。

でも2012年のアレップに20万人いたキリスト教徒は内戦によって2016年には3万人に減ったそうだ。

多くの人が難民となって国を捨てたが、例えば、1995年にヨハネ=パウロ2世からメルキト・ギリシャ典礼カトリック教会のアレッポ大司教に任命されたジャン=クレマン・ジャンバールという1943年生まれの人は、踏みこたえろと信者に呼びかけている。
18世紀にフランスから移住してきた家系でマリストやペール・ブランなどフランス系修道会で学んだ。
アサド政権下では少なくとも学校や病院が無料でモスクにも教会にも課税がなく、キリスト教徒を否定するスンニー派の神権政治を恐れてアサドを支持していた。

どんな状況になっても、アレッポを捨てずに時代、歴史、信仰の証人となることが自分たちの使命だと言っているようだ。

キリスト教の多くの殉教者もそうだが、宗教の権威や政治権力から迫害され、逃げもせず抵抗もせずに処刑されたイエス・キリスト(の復活)を出発点に持っているキリスト教徒たちだからこそ逆境で強さを発揮できるのかもしれない。

そのためにこそ、毎年毎年、受難と復活の再現という典礼を続けてきたのだろうか。

5年になろうとする彼らの受難の終わりは来るのだろうか。
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by mariastella | 2016-03-22 17:16 | 宗教
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