L'art de croire             竹下節子ブログ

復活祭レポートの続き(その2) 十字の切り方

復活祭の日曜日は、夏時間への移行で1時間睡眠時間が削られるので寝坊することに決めて、ミサはテレビで鑑賞。

これがなかなかおもしろかった。

アイルランド、ダブリンにあるフランシスコ会系の教会のミサで、司祭は3名の共同司式。

伴奏がオルガン奏者が指揮を兼ねるコーラスと、チェリストとヴァイオリニストで、彼らのしぐさも時々映って興味深い。私もこれまでになんどか結婚式などのミサの伴奏のギター演奏もしたし、洗礼式でソロのソプラノの伴奏をオルガンで弾いたこともあるからだ。

選曲やタイミングのことがとても興味深かった。

で、何といってもあの有名な、アッシジのフランチェスコの『Make me a channel of your peace』が美しいし、その後で男性ソロで歌われた『ブラザー・サン、シスター・ムーン』もすばらしかった。

前者はフランス語では『Seigneur, fais de moi un instrument de ta paix 』という歌だが英語で聞けるのが新鮮。
もう前世紀の終わりになるけれど、アメリカでの会議の出席を頼まれた時、あわててパリのアメリカン・チャーチに寄ったり、衛星放送の英語のキリスト教チャンネルを熱心に見たりしてヒアリングや語彙の勉強をしたのを思いだした。勧誘をする新興プロテスタントは別として、「大手のキリスト教」の教会って、ただで外国語を勉強するのに一番適した場所のような気がする。

で、どちらかというと「音楽鑑賞」だったアイルランドのミサだが、驚いたのは、三人の司祭のうち端の一人が左利きだったことだ。
いや、左利きの司祭は一定の割合でいるかもしれないが、聖体を授ける時に、右手で容器を持ち、左手で授けているのだ。それだけではない、胸の前で十字を切る時にまで左手で切っていた。

年配だし、一瞬、何かの後遺症で右手が不自由なのかと思って観察したが、右手も普通に動いているようだ。
単に、左利きという可能性が高い。

印欧語の「左右」では、「左」という言葉は不器用だとかネガティヴな含意があり、右はまっすぐや正しいという含意がある。
バリ島でヒンズー寺院に行ってうっかり不浄の左手でお賽銭を渡そうとして注意されたことも思い出す。

日本語も「左前」とか逆さ事というものがある。『左右の民俗学(歴史民存学資料叢書)』(批評社)は私の愛読書のひとつだ。

人間の体が左右対称でない以上、右と左に聖俗や浄穢の差別構造が生まれることは不思議ではない。

日本では左大臣の方が右大臣の方が偉かったけれど、明治以降の西欧風プロトコルの上下関係ではホストの右側の方が上位ということで、お雛様の配列までも変わったという話を聞いたことがある。

右が上位というのは、西洋というより、パレスティナ生まれのユダヤ=キリスト教文化の伝統で、神の右に上げられる、というのがあるからだろう。

右利きが統計的に圧倒的に多いということで。「誰それの右腕となる」という表現もある。

聖母マリアが神の母ということから父なる神の右に坐するというイメージも生まれ、福音書の記述にはないのに十字架の右に立ったと言われ、そのせいで磔刑像のイエスは右下をむいている。

天にいる父を見上げる時だけ左上を見るのは父の右に用意された場所を見ているからかもしれない。(これについては他にいろいろな説がありますが新書版キリスト教で紹介するつもりだ)

しかし、複雑なしぐさなら別だが十字を切るとか聖体を授けるくらい、左利きでも右手でできそうなのに、この司祭、神学生時代などに「おい、右手でやれよ」とか言われなかったのかなあ、と思ってしまう。

もっとも教会法的には左右の強制はないはずだ。
右手がない人や動かない人だっているのだから当然だろう。

それでもテレビに3人の司祭が並んで映って、同時に十字を切ってひとりだけ左手なんて、なんだかほほえましい。
こういう雰囲気の中では教条主義とか原理主義とかは育まれないだろうなあ、と安心する。

最後にこれも有名なアイリッシュ・ソングThe Coolinがヴァイオリンのソロで演奏された。

余韻たっぷりの雰囲気のところで、画面が突然変わって、アイリッシュ・ソングが一転、ヴァティカンのファンファーレが鳴り響いた。青空が広がっている。

フランシスコ教皇になってから各国語の復活祭おめでとうの挨拶がないので各国の巡礼団の規模も分かりにくい。オランダから贈られる白薔薇は変わらない。

「いつくしみの聖年」といっても、「思いやり」とか「いたわり」ではなく、世界をより公正に導くようないつくしみであること、自由と平和という約束の道に向かってみなが進んでいくのだということが印象に残った。
そして最後にいつも通り、私のために忘れずに祈ってください、みなさん、よい昼食を!というのも忘れない。

まあお元気そうなのでほっとする。

自分の宗教にかかわらずこの教皇に対する好感度調査をしたら、最高がポルトガルで94%、次がフィリピン93%、北アメリカ63%南アメリカ77%、など。
カトリックの85%が好感、 プロテスタントで53%、正教で49%が好感。

でも、反感を持っている人の率はプロテスタントで17%(無関心30%)、 正教で11%、(無関心40%)、無神論者と不可知論者は.51%が好感を持ち、仏教徒は33%(反感は11%)、イスラム教徒は28%(反感17%)だそうで、調査不可能はアフガニスタン、中国、イラク、イスラエル、サウジアラビアだったという。

教育程度や貧富でいくと、貧しくて教育程度の低い層ほど教皇への好感度が少ない。反感もない。

つまり、メディアによって伝えられる教皇の言葉などと接して把握する能力やチャンスがないから「どちらでもない」のだ。
貧しい人のために全霊を捧げる今の教皇にとっては皮肉だと言える。

ベネディクト16世は東日本大震災の後で「どうして自分たちがこんな目に合わなければならないのか」と質問した日本の8歳の少女に自分も分からないと答えた。
フランシスコ教皇は、フィリピンを訪問した時、やはり一人の少女に、自分たちは悪くないのにどうして麻薬などの悪が降りかかるのか公開で質問して泣いた。教皇は少女を抱きしめて、「泣くのを恐れてはだめだ」と言った。

教皇と言えば、テロリズムについて、2002年のアルゼンチン経済危機の時「金融テロ」という言葉を使っているし、2014年の教皇庁の病の話の中では9番目に「みなさん、うわさ話というテロに陥らないようにしましょう」と呼びかけた。

「血も涙もなく他人を傷つける」という結果において、暴力のテロも金融テロも噂話も同じだというのはすごい洞察だと思う。誰でもテロリストになる危険があるのだ。

教皇は刑務所を訪れることが多いのはなぜかという問に答えて、それは刑務所にいる人たちを見ていつも「どうして、彼らが?  どうして私ではないのか?」という感慨を禁じ得ないからだ、とも言ったことがある。
教皇が司祭になろうと決心したのは、17歳の時に教区の教会で突然告解をする必要に駆られて告解室に入ったら、そこで「主が待っていた」という体験があったからだそうだ。

教皇になってから、告解ブースに入る前に、「あ、ちょっと」という感じで別の告解ブースにいた告解司祭の前に行き、ひざまずいてまず自分が告解し始めたという映像も残っている。

こういうことを堂々と言ったりしたりできるのは、もともとそういうタイプの人だったのか、そこに「聖霊の力」が働いたのかどうかは分からない。

すごい。

同じ日曜の夜はArteでロシア正教の復活祭のドキュメント番組があった。

それについては次回に。
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by mariastella | 2016-03-29 02:35 | 宗教
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