L'art de croire             竹下節子ブログ

復活祭レポートの続き(その4) イエスの聖上衣

さあ、お待ちかねの(?)アルジャントゥーユの聖遺物巡礼記です。

ここはポントワーズ司教区のカテドラルなので「いつくしみの聖年」の扉が開いています。

そこを通るともうほとんど「全免償」。あ、もちろん「悔い改める」気持ちとかが伴っていないとだめなんですよ。

でも、私は2日前のテレビの教皇のURBI ORBIを見ただけで、もう「全免償」済みだし、3週間有効とも言われる「ゆるしの秘跡」も5日前に受けてるし、楽勝。

というのは冗談なので、まじめな信者さんはスルーするように。

さすがに、先週この町で、ベルギー=フランスのテロリストのアジトが捜索されて大量の武器弾薬が押収されただけあって、巡礼団ぎっしりとはならず、普通の観光気分の人混みでした。復活祭の休日も、数万人程度だったようです。で、個人の巡礼は平日の朝がお勧めとあったので10時の開扉の15分位前にカテドラルに着くようにしました。

うちのドアからカテドラルの扉まで一度乗り換えで50分くらいで着けました。

キリスト教聖遺物の中でトリノの聖骸布、オビエドの聖顔布と並んで、シンボリックな意味、信憑性の高さと謎とが最重要な三点セット聖遺物のひとつです。

以下、レポート。

駅を降りると、おそろいの赤いパーカーを来てスニーカーをはいた巡礼スタイルの初老の夫婦が、駅員にカテドラルへの行き道を聞いていた。すごい速足で歩いていく。

パリのブルジョワ地区の小教区で毎日曜にミサに出ていて、子供たちはみなカトリック系の学校に入れ、リタイアした今はジョッギングとかウォーキングとかハイキングとか、健康的な活動を夫婦で定期的にしていて、ブラック・アフリカの貧しい子供たちを助けるためのチャリティ活動などには熱心だけど、自分ちの近くに政府が路上生活者救済の福祉住宅を建てるのには絶対反対、ムスリムの難民なんてもちろん受け入れない、というタイプの夫婦。

カテドラルまで一緒に歩いただけでよくこんなことを言えるなあと思うかもしれないが、いや、9割は当たっていると思う。こういう背景が服装から挙措にまで透けて見えるのがパリなのだ。

駅の前にはこのための仮の案内所ができているけれどボランティアの人はまだ来ていない。
でもあちこちにカテドラルの道順やポスターがはってある。

絶対にムスリム人口の方が多そうな(フランスは共和国の建前によりもう150年も公的には、絶対に人種別や宗教別の人口統計をしない国なので実態は分らない)町だけれど、カテドラルは1905年の政教分離法以前の建物なので市の持ち物であり、聖遺物公開は「市の観光事業」としてありがたいものだから、「カトリックの祭」を遠慮する雰囲気はない。

カテドラルも聖遺物も、文化遺産として、宗教のシンボルとして両面を持つ。

特に、復活祭の連休も終わったので、カテドラル内で派手な宗教行事があるわけではない。
夕方のミサと、巡礼団のミサがあるだけで、その間は聖遺物の前のスペースには近づけないことになっているので、聖遺物目当てに来る人はむしろミサの時間を避ける。

聖堂前の広場には10人ほどの警官がいて、扉の前で、男性はコートを開いて、女性はバッグの中を見せてください、と一応安全チェックがされるけれど、こんな風に「男女別」の点検のされ方を支持されたのは初めてだ。
広場では臨時ブースがあって、関連書籍、記念のバッジや布の袋やメダルの他にロザリオやロザリオブレスなどが販売されている。

聖遺物と関係のなさそうな蜂蜜や、市の他の観光ポイントの絵葉書も売られているので、これが町ぐるみのビジネスチャンスになっているのが分かる。

聖堂の中で売られているのは蝋燭だけだ。

入場はもちろん無料だし、身分証明書の提示もないし(大学関係の場所の検査では必要だった)、宗教の帰属も関係ない。出る時にはだれでも記念のカードをもらえる。

なんといっても、いつもながら、この「無償性」が気持ちいい。

で、まだ人が少ないのであまり並ばずに済んだし、聖遺物の前で佇んだり写真を撮ったりすることもできた。

でも1984年の時と違って、配置を復元された布片が直接見えるのではなくその上から茶色のヴェールみたいな上衣を被されているので、光線の具合で中の様子があまりよく見えない。

近くのスペースにはずっととどまっていられないので、後は会衆席に座って各自お祈りをどうぞということになる。

本当に真剣に祈っている人もいるし、体の不自由そうな人も少なくないので、この聖遺物が長い間、「奇跡の治癒」をもたらしてきた歴史のことを思いだす。

けれども、奇跡を期待する濃密な空気みたいなものは、ルルドの洞窟の中やパリの「不思議のメダイ(奇跡のメダル)のチャペル」の中ほどには充満していない。

ノートルダムでの「茨の冠」の公開ほどには信者と観光客との信仰密度のばらつきはないし、トリノの聖骸布公開のような規模も「集客力」の迫力もない。

フランスの代々の王家の墓を擁するフランス史で最重要の建物のひとつであるサンドニのカテドラルが今や昼間歩くだけでも治安の悪い町に取り残された形になっているのと似ている。
ジャンヌ・ダルクのオルレアンもムスリムの移民街が多い。

同じ移民街でもイタリア系移民の住み着いた町では、彼らの「マイ・聖女」である聖女リタのチャペルがすぐできるのだけれど。

祈りの対象が聖油だろうが聖像だろうが、聖遺物だろうが、一度「奇跡」の実績、あるいは「奇跡」の風評が確立すればそれは「聖地」となる。

イエスが鞭打たれた後で十字架の横木を担がされて歩く時に着せられた上衣という最高級の聖遺物がずっとこんな場所でこんな形で保管されているのはシュールでもある。

この服は、もともとばらばらになっていたので、布片や糸は何度か検査、分析の対象になった。

ラクダの毛織物だと伝えられていたのに、赤茶に染色された羊の毛で、一世紀のコプトの毛織物と同じ種類のものであると分かっていて、AB型の血痕も確認され、その位置もトリノの聖骸布と一致している。

「聖十字架」の破片のたぐいのキリストの聖遺物は、全部合わせると森ができると言われているくらいだから、あやしいこと限りないし、「骨」さえあれば、聖人の名が後から適当に付け加えられることもあるような「聖遺物マーケット」の世界で、実は、この血の付いたぼろぼろの服(縫い目がなくて袖もそのままの形で織られたことは確実だそうだ。だからこそ兵士たちはそれを引きちぎって分けることができなかった)は、トリノの聖骸布と同じく最も信憑性の高いものだ。

しかし信仰の世界では、いわゆる鰯の頭でも「ありがたさ」は出現するし、「偽物」だって祈りのエネルギーが大きければ「依代」として機能するようだから、この服が本物であるかどうかは実は本質的な問題ではないのかもしれない。
カトリック教会もこれが本物だから崇敬せよ、と言っているわけではなく、長い歴史のある信仰の対象物として認めているわけだ。

ババリアの有名な霊媒タイプの聖女テレーズ・ニューマンは、この服の小片の入った封筒を中身を知らされずに持って来られた時に、がくがく震えだしたという(その証言は確かに残っている)。

いろいろな霊媒が今ここに巡礼に来てレポートを残してくれたら興味深いのだけれど、多分この聖遺物にはもう何世紀にもわたるすごい数の人々の思いやら生霊やら浮遊霊なんかがびっしりついていて、2000年前にこれを見に着けていた男についての情報なんかかき消されているか最古層に沈んでいるもしれない。

どんな聖遺物でもそれ自体は「物」でしかない。

そんなことを考えながら、劇的な回心体験もなく祈りに沈潜するような気分にもなれず、かといってせっかく来たのにすぐ帰るのもなんだし、と迷う私の目に入ったのは、公開期間中ずっとやっている「告解」のポスターだ。

「今日の言語」と書いてあって、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインなどの国旗が描かれている。

数名の告解司祭が祭壇の裏側に待機しているようだ。

聖遺物スペースから出て聖上衣のチャペルの手前のスペースに司祭が一人座っていてその前の椅子に告解する人が座っている。これは普通のフランス人用だ。

少し離れて待合席が30ばかりあるが誰も座っていない。

チャンスだ。

聞きたいことがたくさんある。

(続く)
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by mariastella | 2016-03-31 07:31 | 宗教
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