L'art de croire             竹下節子ブログ

ロンドン市長サディク・カーン

パキスタンからの移民家庭の出身のサディク・カーンがロンドン市長になったことについてのフランスの反応はおもしろい。

多様なイギリス社会のシンボルだというものもあるが、西洋型の世俗的民主主義の理念を完全に体現している限りで是認されているのだから実は多様などではない、という人もいる。

彼は両親の五人目の子供でイギリスで生まれた最初の子供だとも紹介されていた。
ムスリムであるけれど戒律を守っているわけではないしその例が同性婚に賛成の立場であるということも特記されていた。人権派弁護士でフェミニストでもある。二人の娘もイスラム・スカーフはつけていない。

フランスで「モロッコやアルジェリア移民の子孫のムスリムがパリ市長になる」のとはかなりニュアンスが違うかもしれない。

パキスタン人はアラブ人ではないからだ。

フランスではアラブ人であるということとムスリムであるということとがセットになって偏見や差別のもとになっている。

ヨーロッパに長く住む日本人の目から見ると、サディク・カーン氏の身長が165センチだとわざわざ記されている記事があったのも気になった。

実際、写真を見ても小柄なのが分かる。

共同体の首長になる政治家には、姿や声、話し方やファッションも含めた「見た目」のパフォーマンスが重要なことは言うまでもない。

イギリスと言えばアングロ・サクソンがマジョリティの国で、リーダーは「背の高い白人」をイメージしてしまうので、そんな中で「小柄な外国人」なのにリーダーとなるカーン氏はよほど優秀な人なのだろう。

これは一般に男性より身長の低い女性が首長になった場合のハンディともつながる。

いわゆる白人がマジョリティの国にいる日本人としては、たとえば、アメリカで「日系人が大統領になる」というのを想像した時に、政治家としての資質とは別に、その人がアメリカ育ちらしい堂々とした体躯の人だったらいいなと思うような気がする。

ペルーの元大統領のフジモリ氏もバランスの取れた外見だった。

フランスの前大統領のサルコジは任期中ずっと「チビ」だとさんざん嘲笑されてきた。
もちろん敵を作るタイプの人だったこともあるが、そのからかわれ方は、サルコジが嫌いだった私から見ても気分が悪くなるものだった。
体重や肥満度などならともかく、身長などという自分の力でどうにもならないことで悪趣味に嘲る方の人格が疑われる。
それでもサルコジと大して変わらない身長のオランド大統領やロシアのプーチン大統領らがからかわれることがないのだから、本当に問題にされているのは身長ではなく、別のものなのだろう。

それでも、「西洋人」の中の個人差はスルーできても、他民族だとか「移民の二世」だとかがリーダーになる場合、「見た目」がハンディになり得ることが十分あり得ることは、「女性」がリーダーになる場合と同様だ。

フランス語に「plus royaliste que le roi」(more royalist than the king)という言葉がある。

サディク・カーンはヨーロッパ主義者だ。アンチBrexit(EU離脱)を表明している。

政治や経済の観点だけではなく、ヨーロッパが成立した時の理想や理念の一番いい部分にまだ絶望していないのかもしれない。

こんな人がロンドン市長になれたということで生まれる希望も、確実にある。
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by mariastella | 2016-05-15 18:17 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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