L'art de croire             竹下節子ブログ

昨日の補足。 カリタス、ベンゼマ、ISと疲れ。

まず、昨日の補足。

フランス人が天災の前で「連帯=固体化」する様子はたとえばどう言うものかという質問を受けたのだけれど、Secours populaire(スクール・ポピュレール)という民間のボランティア救助団体の拠点が1200もあって、それらがあっという間に活性化したことなどがそのいい例だろう。

フランスには、他の福祉施設やシステムもそうだけれど、近代以前にカトリック教会や修道会が受け持っていたものを、フランス革命後にすべて「共和国」がコピー、継承したものが多い。病院、学校、養護施設などもそうだ。

日本では「カリタスジャパン」と呼ばれるカトリックの国際NGOであるSecours catholique(スクール・カトリック)も並行してよく機能していて、そのSecours populaire はその「共和国版」でネーミングも似ている。フランスでは赤十字とカリタスに次ぐ規模だ。

ともかく増水は峠を越し、水害にあった多くの人はこれからが大変だ。

河の水があふれたので魚も入ってきた、生臭い匂いもする、という被災者のコメントをきいて、私の母から何度も聞かされた神戸の大洪水のことを思い出した。
その洪水は確か『細雪』にも言及されていたと思う。
母の印象はとにかく糞尿の臭さだった。
その頃の日本は都会でも下水が発達していなくて汲み取り式のトイレであり、洪水、浸水は、そこから糞尿が流れ出すことでもあったのだ。その方が水自体よりトラウマとして残ったらしい。

フランスで毎年繰り返される洪水のニュースではそんな話は聞かないから、洪水の恐ろしさは変わらなくても、被害の質が変わっていく部分もあるのだろう。

天気が回復に向かっても、フランスを取り巻く空気はネガティヴだ。

サッカーのユーロ杯が6/10に始まるが、ラマダンが6/6に始まるので、ぴりぴりした気配もある。

ムスリムの選手がどういう風にやりくりするかという話題もあるし、この期間、しかも日没が遅いので、断食は苦しく、周囲の理解を得られないでアグレッシヴになる人も毎年出てくる。ラマダンの期間に殉教するとより徳が積める、と煽るテロリストがいるのも怖い。

また、セックス・テープ事件でスキャンダルを起こしたスター選手のベンゼマがユーロ杯の代表チームから外されたことで、監督のデシャンの名前がフランス的で差別主義者だなどとエリック・カントナ(過去のスター選手で俳優に転身)が馬鹿なことを言い出した。

デシャン(日本でいうと山田さん、的な名前)のようなフランス的な名なら一族同士で結婚しているのだろう、モルモン教と同じだ、

という、突っ込みどころが多すぎる差別発言だ。

実際は、今回のチームは若手が中心だが、今までと同様、人種だの民族だのしっかり混ざっている。
カントナが言うような「フランス的」な選手は少数派だ。

デシャンと同時代のジダンのようなワールドカップ優勝経験のあるスター選手は完全に「共和国化」している。

あれほどの富と名声と国民的人気を得た人なら当然期待される一定の社会的責任を果たしている。

しかしその次のベンゼマの世代は、同じように「移民の子弟」のスタートから、その天才によってスターとなり富と名声を得たのに、それを「社会に還元する」意識よりを持たなかった。

「昔の仲間」を裏切らずに忠実につるんで悪事の便宜を図る、という方が人間として立派だという錯覚をする選手が出てきた、とある解説者が言っていた。

そういう選手を天才だからというだけで何をしても受け入れるのではなく、モラルを要求して妥協しないという時代に今は入っているので、ベンゼマよりさらに若い世代は、むしろジダン型のモラルを持つ人が残る、というのだ。

私はサッカーに基本的に興味がないのだけれど前に二度ベンゼマについて書いたことがあるので、「そうか、長い目で見ると、またいい方に向かうのかなあ」と思いながら聞いていた。

もう一つ、いいニュースかどうかは分からないけれど、2月に、シリア人の若者がパリの18区の警察にやってきて、ドイツでのテロ情報を与えたという話がある。

警察はすぐに信用したわけではないが、結局その男の言ったとおりに、デュッセルドルフでテロ準備中のシリア人二人の逮捕に至ったというのだ。
自分もその計画に詳しくコミットしていたらしい。ISに捕えられている司祭の情報も提供したという。

なぜ警察に協力する気になったかというと、

「疲れた」

からだそうだ。

このすごく普通の感じに驚かされる。
ISで洗脳されていたのかどうか知らないけれど、ジハードと称するテロを周到に準備し、リスクもおかした。
でも、それが結局は自爆することや射殺されることに終わるということにふと気づいた時に、逃亡して仲間に殺されるよりも警察に駆け込んでIS掃討に協力するという選択をしたのだろうか。

ISの中にはひょっとして多くの「疲れた」若者がいるかもしれない。

「疲れ」の自覚というのはサヴァイヴァルに必要な大切なもので、無我夢中で頑張っていた時には絶対見えなかったものが疲れた時にぼんやり見えてくるというのは、ある、と思う。
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by mariastella | 2016-06-05 02:58 | フランス
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