L'art de croire             竹下節子ブログ

リパの聖母

(昨日の続き)

アルゼンチンのサン・ニコラスの聖母の前年に認定されているご出現は、フィリピンの「リパの聖母」だ。

「リパ」とカタカナで書くと字面が「パリ」の反対だなあという気がするが、LとRで違う。

こちらの方が1948年に始まっているからサン・ニコラスよりも古い。

こちらも、19世紀の有名な「ご出現」を自在に組み合わせたようなコンテンツが満載で、それに、グアダルーペの聖母にもあったがわりと昔からある「バラの花」の奇跡というのが加わる。

パリのバック通りのように、修道会に入ったばかりの見習い修道女が9月12日に声を聴き、次の日から15日間約束の場所に行ったら聖母が現れた

場所はルルドのように野外だが、修道院の庭の灌木のそばというこじんまりしたスケールだ。それでも、奇跡の水があるし、薔薇の花びらは降ってくるし、奇跡の治癒も相次いだ。

ところが1951年に6人の司教が信心を禁じている。再調査されたのは1991年だった。

日本語で検索したらこういう記事こういう記事があった。

そういう事情があったのかもしれない。

認定は、昨年の9月12日、フランシスコ教皇のフィリピン訪問と同時だった。

聖母ご出現の一番多いのはやはりヨーロッパで、イタリアとフランスが群を抜いているが、この二国は信仰の形もメンタリティも違うのでおもしろい。

アメリカ、カナダ、メキシコ、ブラジルなどアメリカ大陸にも少しあり、珍しいところではアフリカで1981年ご出現のルワンダが2001年に認定、中東ではローマカトリックではないがシリアで1982年のものが1987年に認定されている。

しかし聖母に関する超常現象で何といっても目を引くのはなんと日本の聖母の奇跡だ。

アジアで有数のカトリック国であるフィリピンのリパの聖母でさえ、1991年まで日の目を見なかったのに、アジアで最初の「聖母の奇跡」(いわゆるご出現ではなく聖母像が涙を流したというやつだ)は1973年から1981年の「秋田(湯沢台)の聖母」である。

司教が認定したのは1984年、1988年には当時教理省長官だったラツィンガー(ベネディクト16世)が認証している。それが必要だったというのは、いろいろ物議があったからだ。

この「奇跡」で、日本よりカトリック信徒の多い韓国から「秋田の聖母」に巡礼に来た韓国のジュリアさんが、国に戻ってから涙よりインパクトがある血を流す「ナジュの聖母」像のお告げを聴くようになった(1985-1994)。
その他にも多くのパフォーマンスが続いたのだけれど、当地の司教の調査結果はネガティヴで、信心や崇敬は禁止された(1998)。

なんでまた、信者数でいうとカトリック砂漠みたいな日本で、しかも、有名な長崎などでなく秋田で、と思われるかもしれないが、まあそれにはそれなりの経緯がある(私はこの話を現地取材も含めて『聖女の条件』(中央公論新社)に書いたている。

秋田の聖母の物語も、他のものと同じく平均的な奇跡の聖母ストーリーに合致しているのにも関わらず、日本の中では他の国と全く違う受け取られ方をした。
「イエス」は真実であり、「聖母は文化」なのだろうか。
秋田の聖母の物語とナジュの聖母の物語を比較すると、彼我の感受性の大きな違いが見えてくるのは、イタリアとフランスの違いや北米と中南米の場合と同じだ。

先日私のサイトのおしゃべりコーナーで、カトリックの未来について、という趣旨のご質問をいただいたのでお返事したばかりだ(6/6付)。

ご質問の文の中に、「西洋ヨーロッパどうしてこう理屈と概念中心のキリスト教にしてしまったのだろうか?」という表現があったのだが、こういう「聖母ご出現認定」のようなシステムが21世紀にも残っている、それこそ「多様性温存」のカトリックには、合理や非合理の二元論をスルーしても守り伝えようとする何かがあるのかもしれない。
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by mariastella | 2016-06-08 03:00 | 宗教
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