L'art de croire             竹下節子ブログ

Brexit、サッカーの欧州杯、砂漠の難民の死

イギリスのEU残存派の議員が50代のネオナチの男に殺されたことでBrexitに関するキャンペーンが一時停止された。

男は休日に芝を刈る礼儀正しい常識人として隣人に知られていたという。ネオナチにはよくあるタイプだ。

これが国民投票の結果に影響を与えるかどうか私には分からない。

けれども、世界中の大英帝国の旧植民地やら英連邦国からの移民をどんどん受け入れてヨーロッパで一番「クセノフォビア(外国人嫌い)」の弱い国だという評判の実態が、移民棲み分けの共同体主義社会であることの弊害が垣間見える。

ロンドン新市長がパキスタン系で話題になったが、人口の36.7%が外国生まれで、300以上の言語が話されている(2011年の国勢調査。ちなみに共同体主義をとらないフランスでは外国生まれとか何系とか宗教、言語別の公式統計は一切ない)というロンドンは、アメリカで言えばNYのように例外的な場所だ。

他の場所では、基本が日本と同じような「島国」なのだから、先住のアングロサクソン系などの白人が、「外からやって来る異分子」の共同体に対して警戒の目を向けているとしても不思議ではない。

今回のネオナチは、アメリカ発のグループだということも示唆的だ。

Brexitの背景には、表向きの移民天国によって、多くの難民がすでにイギリスにいる親戚を頼ってヨーロッパを経由して大量に押し寄せることへの潜在的恐怖がある。

今フランスではサッカーの欧州杯の最中で、悪名高いイギリスのフーリガンが酒を飲んでは暴れているが、彼らはもちろんラマダン中のムスリムでもないし、伝統的なイギリス人の風貌をした人たちばかりだ。

死者まで出した衝突の相手もロシアの極右サポーターだった。

サポータ-たちとナショナリズムと外国人排斥は今のヨーロッパで確実に連動している。

難民に関してフランス側でよく話題になるのは、イギリスのEU離脱が可決されたら、国境はイギリスのドーヴァー側になるということだ。

今のEU合意ではフランス側のカレーだ。フランスにはカレーから難民を外に出させない義務がある。

カレーには今や「ジャングル」と呼ばれる難民無法地帯が形成されている。

イギリスに渡ろうとする難民の群れをフランス側で食いとめなければいけない今の情況から解放されればフランスはほっとするだろう。フランスから「出る」だけなら阻止する理由がないからだ。

歴史的にフランスと良好な関係にあるスコットランドが今度こそ独立してEUに再加入するというシナリオも口にされる。

「ナショナリズム」的に言えば、イギリスの「離脱」はフランスにとっても都合がいいのだ。

一方、昨日、ニジェールの砂漠で、34人の難民の遺体が発見された。

同じ場所ではなく、ヨーロッパに向かうために歩いているうちに脱水症状で少しずつ脱落したもので、うち20人が子供だった。

ドイツがトルコと協定を結んで、難民がトルコ経由でヨーロッパに入るのがブロックされて以来、難民の多くが砂漠の陸路経由でヨーロッパに向かうようになった。

昨年9月に3歳のシリアの子供の遺体が海岸に打ち上げられた画像がヨーロッパ中に衝撃を与えて難民受け入れが加速されたこと、しかし大晦日のドイツでの難民らによる女性の襲撃を機に世論の流れはまた変わり、トルコとの協定に至ったことは記憶に新しい。

2014年以来、地中海を中心に1万人を超す難民が目的地に着くことなく命を落としている。

うち1500人は子供たちだという。

国境が閉じられても、多くの先発者が道半ばにして命を落としても、それであらたな難民たちが戦火や貧困から逃げるのをあきらめるわけではないことは明らかだ。

政治や宗教やイデオロギー間のネゴシエートやパワーゲームによる解決の模索とは別に、今、生命の危険に陥っている人々をとりあえず救出する以外の道はあるのだろうか。

今のヨーロッパの情況では、

「国境を閉めます」

と言うことは即、

「それによって多くの人が死ぬことについては無視します」

と言うことに等しいのだけれど、2番目のフレーズはどの国も敢えて口にしない。

「国境」の設定をカレーにするのかドーヴァーにするのか、
トルコ、ギリシャ、イタリアに留めるのか、
シェンゲン協定の自由通行地域でも鉄条網をはりめぐらせるのか、

欧州杯が煽っているナショナリズムの空気には、実はいろいろなことが反映して渦巻いている。
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by mariastella | 2016-06-17 18:54 | フランス
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