L'art de croire             竹下節子ブログ

イギリスのEU離脱、ジャンヌ・ダルク、シラノ・ド・ベルジュラック

イギリスのEU離脱が決まった。

離脱派のテロリストに殺された残存派の議員はさぞ無念だろう。

フランスの反応はまあ予測通りだ。

私の『戦士ジャンヌ・ダルクの炎上と復活』(白水社)の第一章に「英仏の戦いとナショナリズムの萌芽」というタイトルで詳しく書いたが、そもそも世界の「ナショナリズム」という現象の出発点に英仏の確執がある。

そこに統一ドイツが加わった時、ドイツに抵抗するためにだけ英仏がタッグを組んだのだ。

EUによって独仏が和解してしまえば、英仏が「お友だち」になる理由はない。

ドイツによるフランス占領時代にイギリスに亡命して自由フランスを立ち上げたド・ゴールが、戦後にドイツとEUの母体を作った後で

「イギリスは大陸とメンタリティが違うからちょっとね」

と言っていた映像が近頃繰り返し流れていた。

経済的、政治的分析はいろいろな人がしているからここでは書かないが、今のEUの問題は、まさにEUが経済機構になってしまっている所から来ている。

対米、対中という強大な経済圏に対抗するサバイバルのブロックとしてEUが拡大してしまったことだ。

『キリスト教の謎-奇跡を数字から読み解く』(中央公論新社)の第12章で書いたように、そもそもヨーロッパは経済ブロックとしてではなく、二度の大戦の反省と永久平和の理念から生まれた。

簡単に言うと、今の「非ヨーロッパ文化圏」がしばしば非難するすべてのことについての反省だ。

二度の世界大戦はいずれもヨーロッパから始まった。
ヨーロッパがスターリンもヒトラーも生んだ。
植民地主義も展開した。
結果的に核兵器という人類破滅につながる兵器を生み出しそれによる被害(日本)も出した。

これらすべてについて反省し、互いに責任転嫁しないで、もう二度と、ヨーロッパを戦場にしないように、ヨーロッパの国々で国家の名によって人が殺し合わないように、人権宣言を守るように、という決意のもとにヨーロッパが誕生した。

その決意は、加盟各国の中で決まる民主主義の多数決よりも、合法的であることよりも優先する大切なことである。
違法ではないからと言って正当であるとは限らない、多数決で決まったからと言って正義であるとは限らない。
二〇世紀前半の歴史が彼らにそれを確信させたはずだった。

それがいつのまにかグローバリズムの中での生き残りをかけた「経済ブロック」になっていた。

最も経済的な利益を得た国のひとつがイギリスだ。

同時に、ユーロも採用せず、シェンゲン協定にも加わらず、「孤高」の立場をとってきた。

これはイングランドの考え方で、スコットランドやら北アイルランドやらとは違う。

今フランスで決勝トーナメントが始まろうとしているサッカーのユーロ杯、イングランドが優勝したりしたら、どんな空気になるのかなあと興味がわく。

話は別だが、右翼に人気のこの「孤高」の称揚、当然シェークスピアが引用されるのかと思ったら、最近何度も話題に上がったのはフランスのエドモン・ロスタンの有名な『シラノ・ド・ベルジュラック』の台詞だった。

第二幕八場。

Ne pas monter bien haut, peut-être, mais tout seul !

というやつだ。

「建前の強がりを言わなければ富と栄光を得られるかもよ」と言われたシラノが、

「大木にはりついて樹皮をなめながら登っていくツタであるのはごめんだ、高くなくても自力で登ってやる」

という論を展開する。

イギリスのナショナリストの間では、

「EU離脱でたとえ経済的打撃を蒙っても主権を侵害されるのはまっぴらだ」

という文脈で引用される。

この状況ではつっこみどころは多いし、実際このテキストをバカロレアのテーマで分析する時などは、人間は一人では生きられない、一人で生きていると思うのは幻想か傲慢だ、などとコメントされる。

けれども、シラノの場合は、金や栄光の獲得を一義にしない文学者の矜持という意味で、なかなかすばらしいセリフだ。

EUでいうと、ナショナリストの論議とは逆で、「主権を侵害されるのが気に食わない」などという話ではなく、経済成長とか金融資本主義、拝金主義や安易な愛国主義に惑わされずに、過去の失敗に学んだ恒久平和の確立という理想を、金や栄光の上位に維持し続けよう、という決意を鼓舞するものだと言いたい。

近頃の日本のメディアやジャーナリズムを見ていると、ブログによって正論を叫び続けている少数の人々にこそこのシラノの台詞を励ましの意味で届けたいくらいだ。

(以下、その一人、フランス語読みの古川利明さんのためにこの場のシラノの台詞の全部をコピーしておきます。)

LE BRET
Si tu laissais un peu ton âme mousquetaire,
La fortune et la gloire...

CYRANO
Et que faudrait-il faire ?
Chercher un protecteur puissant, prendre un patron,
Et comme un lierre obscur qui circonvient un tronc
Et s'en fait un tuteur en lui léchant l'écorce,
Grimper par ruse au lieu de s'élever par force ?
Non, merci. Dédier, comme tous ils le font,
Des vers aux financiers ? se changer en bouffon
Dans l'espoir vil de voir, aux lèvres d'un ministre,
Naître un sourire, enfin, qui ne soit pas sinistre ?
Non, merci. Déjeuner, chaque jour, d'un crapaud ?
Avoir un ventre usé par la marche ? une peau
Qui plus vite, à l'endroit des genoux, devient sale ?
Exécuter des tours de souplesse dorsale ?...
Non, merci. D'une main flatter la chèvre au cou
Cependant que, de l'autre, on arrose le chou,
Et donneur de séné par désir de rhubarbe,
Avoir son encensoir, toujours, dans quelque barbe ?
Non, merci ! Se pousser de giron en giron,
Devenir un petit grand homme dans un rond,
Et naviguer, avec des madrigaux pour rames,
Et dans ses voiles des soupirs de vieilles dames ?
Non, merci ! Chez le bon éditeur de Sercy
Faire éditer ses vers en payant ? Non, merci !
S'aller faire nommer pape par les conciles
Que dans les cabarets tiennent des imbéciles ?
Non, merci ! Travailler à se construire un nom
Sur un sonnet, au lieu d'en faire d'autres ? Non,
Merci ! Ne découvrir du talent qu'aux mazettes ?
Être terrorisé par de vagues gazettes,
Et se dire sans cesse : « Oh, pourvu que je sois
Dans les petits papiers du Mercure François » ?...
Non, merci ! Calculer, avoir peur, être blême,
Préférer faire une visite qu'un poème,
Rédiger des placets, se faire présenter ?
Non, merci ! non, merci ! non, merci ! Mais... chanter,
Rêver, rire, passer, être seul, être libre,
Avoir l'oeil qui regarde bien, la voix qui vibre,
Mettre, quand il vous plaît, son feutre de travers,
Pour un oui, pour un non, se battre, - ou faire un vers !
Travailler sans souci de gloire ou de fortune,
À tel voyage, auquel on pense, dans la lune !
N'écrire jamais rien qui de soi ne sortît,
Et modeste d'ailleurs, se dire : mon petit,
Sois satisfait des fleurs, des fruits, même des feuilles,
Si c'est dans ton jardin à toi que tu les cueilles !
Puis, s'il advient d'un peu triompher, par hasard,
Ne pas être obligé d'en rien rendre à César,
Vis-à-vis de soi-même en garder le mérite,
Bref, dédaignant d'être le lierre parasite,
Lors même qu'on n'est pas le chêne ou le tilleul,
Ne pas monter bien haut, peut-être, mais tout seul !

LE BRET
Tout seul, soit ! mais non pas contre tous ! Comment diable
As-tu donc contracté la manie effroyable
De te faire toujours, partout, des ennemis ?
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by mariastella | 2016-06-24 22:15 | フランス
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