L'art de croire             竹下節子ブログ

イギリスのEU離脱をフランスから見る その1

イギリスのEU離脱で(私にとって)世界はますますおもしろくなってきた。

(精神の健全さシリーズは少しお休みですが、あのシリーズで健全とされる視点を持って状況を見るのが大切です)

Brexitに対する反応の建前やら本音やらを観察すると、今何が起こっているのかこれからどちらを向けばいいのかが分かってくるからだ。

特に、投票結果が分かったのはヨーロッパの午前3時とか4時とかなので、翌日の朝刊に間に合わない。

だから、メディアの報道もちょっと内容のあるものはすべて、その日の夕方の特別番組やきょう土曜の新聞などに持ちこされた。

そのおかげでTwitter的なその場限りのお決まりのコメントをたくさん聞かずに済んだし、友人たちといろいろ話せたし、街の声も聞けた。

昨日は先日の二つのコンサートの後休んでいたカルテットの練習でモーツアルトを3曲、トリオの練習では年末の新しいプログラムに向けて、仕込みの終わった4曲に加えて新しい2曲(ダルダニュスのタンブランと栄光の神殿のアントラクト)を練習、分析。

Brexitについても話し合う。

その前に町のレストランで昼食をとったのだけれど、どのテーブルもBrexitについての議論が飛び交っていた。

こういうとなんだけれど、フランスのような国で、観光客の多いところは別としてこの時期のレストランの昼食時には、ある共犯意識というか、一味違う「自由」の感覚がある。

なぜならラマダン期間だから、ムスリム共同体の人が全く来ない。

普段はもちろんいろんな人が来るから、政治論議好きなフランス人といっても近頃は、

「隣にジハディストがいるかもしれない」「隣にネオナチがいるかもしれない」

というような無言の自制心というか警戒心が働く。

その点、ラマダンの時期の町のレストランというのは、何となく「共和国意識」の連帯感がを感じられるのだ。

隣にイギリス人がいたら? というのは心配無用で、17万人というフランス在住のイギリス人はたいていフランスびいきでもちろん親ヨーロッパなので問題ない。

日本にいると多くの海外情報が当のイギリス経由や他の英語圏経由だろうから、耳にしないことが多いだろうと思うので、ここでフランス発の草の根情報を紹介していこう。

まず、今回のEU離脱の後押しをしたものの一つに、昨年のメルケルの難民受け入れ歓迎表明があったことは事実だ。

で、フランスがどう思っているかというと、本音の本音では、難民問題をあまり気にしていない(極右のプロパガンダは別だ。どこでも、難民問題、EUのせい、とEUをスケープゴートにするレトリックは同じ)。

なぜかというと、フランスは通過点で、難民のほとんどは、フランス経由でドイツに行ったり、北欧に行ったり、イギリスに行ったりすることを知っているからだ。

フランスは通過される場所で目的地ではない。その理由は皮肉なことにフランスのユニヴァーサリズム政策にある。

コミュニタリアニズムを基本的に否定しているので、難民や移民が安心して「自分ちの生活」を続けられるコミュニティが保証されていないからである。

共同体意識の強いタイプの移民、難民は、フランスにいると、公民意識や共和国主義をたてにごたごた言われて落ち着かない。「共同体で固まっていると差別される」という現実もある。

次に、難民問題でEUがスケープゴートにされるのは理由のないことではない。

2013年の初め、ランペドゥーザ島近海で大量の難民が難破し続けた悲劇の後、イタリア政府はEUに訴えたが、何もしてもらえなかった。
それでイタリアは自国の海軍を動員して救助に当たった。ランペドゥーザの自治体や住民が難民のケアをした。

その一方、イタリアでなくドイツが難民について何か言うと、それは即EUの問題として取り上げられる。
EUの中に明らかに格差がある。それが経済力によるものであることは間違いがない。

ドイツにもランペドゥーザにも、EUにもトルコにもシリアにもアメリカにも、一貫してすべての難民救済と移動の自由を訴えているのはローマ教皇くらいだ。
彼のユニヴァーサリズムがボランティアを支えている。

難民問題でシェンゲン圏の国が国境線に鉄条網を張り巡らせたりしたのは、EUがEUとして国境の管理をしてこなかったことで不安感が増大したためだった。
その意味でEUが機能していない、という批判は当然だった。
EUの元祖で牽引力となっているドイツとフランスが、本質的なところでスルーしていたからだ。

フランスは「イタリア、スペイン、ポーランドの難民受け入れに成功した歴史があり旧植民地国の移民受け入れにも慣れていて、しかも「共和国主義」でそういう「移民の子孫」というカテゴリーが公には存在しない上に、
前述したように、どうせフランスは通過地点という見通しがある。
ドイツには少子化対策として難民受け入れ歓迎というベースがあった。

どちらも実際は真剣に取り組んでこなかったのはそういうわけだ。

Brexitショックのおかげで、いろいろなことが原点に戻って考え直されるとしたら、むしろEU存続のチャンスではないかとみる人は少なくない。

(続く)
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by mariastella | 2016-06-25 20:17 | フランス
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