L'art de croire             竹下節子ブログ

イギリスのEU離脱をフランスから見る その2

EU離脱について土曜の朝はようやく新聞各紙の特集記事がそろったのでいろいろ読み始めているが、ひとまず、まだ金曜日の段階で仲間と議論したことをベースに話を進めよう。

Brexitのテーマにはわくわくさせられる。

まず、イギリスがEUの仲間(最初はまだEUという形ではなかったがここではこの呼称に統一する)に入ってから43年、私がフランスに住み始めてから、40年、この40年にヨーロッパで起こった変化とその意味を探り、今の状況を分析するのにちょうどいいスケールの出来事だからだ。

それに、近頃のテロや難民の遭難などのニュースと違って、情動に汚染されないで済む。

テロのニュース、難民キャンプのニュース、戦争の報道などは、昨今のスペクタクル型報道のせいで、血まみれの子供たちの映像とか銃撃戦の音声とか爆撃の悲惨な爪痕とかいうコンテンツが繰り返し繰り返し刷り込まれるので、識別力が落ちる。

そういうエモーショナルなところにナショナリズムや排外主義の煽動、あるいは逆に突然のヒューマニズムの煽動が加わると識別すべきものとの間の距離をとるのはたやすくはない。

けれども、Brexitの問題となると、本当はテロや難民などそれらすべてを包含しているのにも関わらず、目に見える形での直接の犠牲者がなく一応「論戦」の形をとっているので、とても冷静に観察できる。

今「直接の犠牲者がない」と書いたけれど、国民投票の直前には残留支持の議員の政治テロによる暗殺が起きている。これに対する感覚もフランスとイギリスでは正反対だ。

このような形のテロはフランスの感覚では大ショックである。
単にひとりの狂信者の個別の犯罪ではなく、まさに言論の自由を脅かす、国家の理念を揺るがす大問題だ。

イギリスでもキャンペーンが一時注視され公に追悼や哀悼があったけれど、大きな流れの中ではアクシデントのひとつとして片づけられた。

どこの国でもシンボルとなる大統領だとか首相だとかあるいは宗教のリーダーだとかが、その称号故に狂信者に命を狙われるというリスクはある。
だからこそ厳重に警護される。

けれども、ある特定の時期に特定の政治的意見を表明する者が、反対側の陣営の狂信者から殺されるというのは、「国民投票で信を問う」という「民主的手続き」を展開しているような国では絶対にあってはならないことだ。

それが起こったこと、そしてそれが大スキャンダルにならなかったこと自体に驚くフランス人は多い。

「フランスなら絶対にあり得ないタイプの殺人」であり、だからこそ、もし発生したら、それこそキャンペーン中止どころか、国民投票そのものが延期されたり、犠牲者は、民主主義、共和国主義の殉教者としてシンボライズされたりするだろう。

労働法改正で今もデモが続き、それが毎回ある種の暴動で終わるパリだけれど、去年のシャルリ・エブドのテロに抗議するデモでは共和国理念に対する無条件のコンセンサスが可視化した。フランスのような個人主義の発達した国で、こういうコンセンサスがあるというのはすごいことだ。(ちなみに、今の労働法改正反対のデモでも、多くのフランス人は、それによって蒙る不便に耐えて、デモ自体の権利はリスペクトしている。)

ド・ゴールがイギリスのEU参加に懸念を表明した時に、イギリスがもし「ヨーロッパから全体主義の芽を永遠につみとり戦争をなくす」というEU創設の理念に賛同していたなら最初から加わっていたはずで、後から加わるのは経済的な利便のためだけだ、と言っていたのはある程度当たっている。

以前の記事でも書いたが、「フランスとドイツが和解する」なら、イギリスはわざわざもともと仲の悪いフランスと組む必要はなくなるわけで、EUの

「今までの過ちを繰り返しません」

という出発点は

「ぼくんちには関係がない」

話だった。

なぜなら

「ぼくんちが民主主義の発祥地で、議会政治の発祥地で、全体主義国家を倒すために犠牲を払ってきたヒーローで、過ちを正してきた立場だから、反省する必要はないもんね」

という意識があるからだ。

イギリスがEUに加わったのは、だから、その創設理念に共鳴したのではなく経済的メリットを計算したからで、実際そういうスタンスをずっととってきた。

メリットは享受したけれど、他の多くのことでは「ぼくんちは特別だから」と、いつも例外処置を要求してきたのだ。

そしてイギリスの経済復興は経済ブロックとしてのEUにとってとても大切なものだったから、EUはその「例外」の要求をいつも呑んできた。

グローバリゼーション、新自由主義経済の世界では、「過去の過ちの反省」なんていう創立精神も理念も吹っ飛んでしまった。

その意味では、イギリスが離脱することで、EUが初心に帰るならば、民主主義とは遠く離れてしまったブラッセルのテクノクラートがマルチナショナルと組んで格差の拡大に加担する現状の方向を修正できるかもしれない。

できなければ、EUは経済圏として終わり、崩壊を続けるだろう。(続く)
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by mariastella | 2016-06-26 01:36 | フランス
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