L'art de croire             竹下節子ブログ

イギリスのEU離脱をフランスから見る その3

Brexit から丸二日経った。

それにしても、国民投票翌日のテレビの報道がパニックを煽ったものばかりだったのには笑えた。

「悪いニュース」「悲観的な予測」の方が「売れる」趨勢がそのまま表れている。

Brexitの立役者ボリス・ジョンソンの金髪の風貌がトランプに似ていたり、ウェストミンスターにお伺いを立てずに直接ブラッセルのEUに、EUに残りたいと直訴(?)したスコットランドのニコラ・スタージョンがメルケル首相の若い頃によく似ていたりするのもおかしい。

ユーロ杯サッカーの各チームの選手にインタビューして

「Brexit? そんなこと考えている場合じゃないし…」

とか

「Brexit? ああ、ダンスの名前?」

とかいう答えを拾っているのも笑えるし、これでイングランドチームが優勝し、もうすぐ始まるツール・ド・フランスでも、去年と同じくイギリス選手が優勝する可能性大だね、と予測するのも愉快だ。

何より笑えるのは、この国民投票の茶番劇が2005年のフランスであったEU憲法条約批准の国民投票の既視感をもたらせることだ。

このことを、進級試験に例えている人がいた。

「国民投票の失敗」という評価は、これが投票でイエスかノーかの意見を聞いているつもりははなからなく、イエスという「正解」が想定されていたからだ。

2005年のフランスの投票でも、政府、知識人、メディアがいっせいに

「フランスがこれを批准しないとEUでのすべての信用を失う、孤立する、恥だ、大変なことになる」

と散々脅し文句を並べての投票だったが、その「教え方」が悪いか生徒が劣等だったせいで、人々は「ノー」と「誤答」してしまった。

マストリヒト条約以来すでにEUが人々の生活と乖離していたからだ。

エリートたちはあわてふためいた。

で、どうなったかというと、あら不思議、「誤答」にもかかわらず、人々はいつの間にか、ちゃんと「進級」していたのだ。どういう仕組みだかわからないが、「試験」には落ちたけれど落ちこぼれたものを救って裏口からちゃんと通してくれていたのだ。

フランスにはその経験があるから、10年前のことを覚えている人たちは、いくらイギリスでも「教育のない不満分子」が多くて「ノー」という「誤答」を突き付けても、今回も結局は、エリートたちの利益が損なわれないような落としどころに落ち着くだろう、と予想する。

たとえEU離脱は避けられないとしても、マルチナショナルやグローバル経済の勝ち組エリートたちに実質マイナスにならないような巧妙なネゴシエーションが展開されるだろう。金という力を持っているグループ、すでに特権を得ているグループが利権を失うような動きには絶対ならない。

EUへの入り方も「例外的」だったイギリスは、離脱する時も、いろいろな影響力や特権を維持するのは自明だ。

だから、イギリスが離脱の先例を作るからと言ってドミノ倒し式に他の国もそれに続くとは限らない。

「自分ちは平和も民主主義も自分で達成しているからEUのえらそうなご託宣はいらない」

と自負するイギリスが経済的な利益優先でEUに加わったのと違って、後からEUに加わった多くの国の動機は異なる。

スペインやギリシャや旧共産圏の国々のように自分たちの国の軍独裁政権や一党独裁政権が終わった時に、「民主主義」「自由主義」の港、シンボルとしてのEUの門を叩いた、という経緯があるからだ。

経済的なメリットだけではなく、一応、EU結成時の理念に惹かれた状況があった。

EU成立の牽引となった独仏の間には、普仏戦争と二度の大戦のトラウマが今も残っていて、

「ヨーロッパ」とは「穏やかな朝」のことだ。ヨーロッパで目を覚ます限り、もう戦争はないし、死刑もない、それがどんなに心の平安を与えてくれるか…

としみじみ語る人は今もいる。

しかし、そのような「平和の理念」の「理」は、いつの間にか、少数のエリートや富裕層の「利」に取って代わっていた。

「理念」は「利権」をカムフラージュするものになっていたのだ。

なんだか、もっとさかのぼって、宗教改革の時代のヨーロッパのことも考えたくなってしまう。

ヨーロッパにおける非暴力平和主義、平等主義、普遍主義の源泉となったナザレのイエス、「主の平和」を掲げ、目指す、カトリック(普遍)教会、エリートたちはみんながラテン語を操り、修道僧、聖職者、巡礼者たちが自由に行き来していた。

しかし、ここでも、「理」よりも「利」、「理想」に取って代わった「利権」がはびこるようになっていた。

で、イギリス。

その昔、ラテン語もフランス語も堪能だったというイングランド王ヘンリー八世は、世継ぎ問題という権力継承のために離婚と再婚をしようとしてカトリック教会から「離脱」した。

そのおかげで全部で6度も結婚するというしたい放題(?)ができた。
自分がイギリス国教会の首長になったからだ。

「栄光の独立」精神はその頃からあったわけだ。

で、それとは別の理由で、大陸でも、カトリックのヨーロッパが世俗の権力と癒着して腐敗しきっていることに抗議(プロテスト)した人びとがカトリック教会から「離脱」して行った。

まあそのおかげで、カトリック教会もさすがにこれはまずいと思って、トリエントの公会議を開き、カトリック教会を刷新して、元の「理想、理念」に帰り、カトリック改革に取り組んだわけだ。

それでもヨーロッパが「分裂」しきらなかったのはいくつかの理由が考えられる。

カトリック教会の独身制のおかげで、「刷新」すれば子孫へ権力継承させるという「業」から解放されること、

逆に世俗の権力者である王侯貴族間では複雑に姻戚関係が張り巡らされているので互いが完璧に縁を切ることができないこと、

カトリックも、プロテスタントも「初心」に帰ればキリストの唱えた自由平等平和主義を見出さざるを得ないこと、

キリスト教を切り捨てた人間中心主義の近代ヨーロッパも、結局は「キリスト」や神の名を出さない自由、平等、平和主義を採用したこと、

などだ。

そしてたとえ建前だけだとしても、その「理念」「理想」の共有があるからこそ、その後も続く、過ちに次ぐ過ちに対して反省に次ぐ反省を繰り返し、関係を修復したり、対話を進めたり、共生の仕方(政教分離など)を工夫したり、で、カトリック教会もヨーロッパも生きながらえてきたわけだ。

ある意味で、EUもその「工夫」のひとつの形であり、同時に「理」が「利」に食い尽くされる悪しき前例をも踏襲しているということだ。

フランスは、近代革命によって少なくとも表向きは「理念」を優先する国になった。
イギリスではイングランド国教会が存続している。

イギリスの「栄光の孤独」にはその矜持が反映しているのかもしれない。
でもそれが、移民のモザイク国家の実態とは乖離しているのもまた事実である。

そこに、キリスト教の神に取って代わって「金(または金融)」という神が君臨し始めて、平等どころか、いたるところで経済格差が広がっているのが現状だ。

「利」を「理」で制御する刷新運動がまた起こってくるのでなければ、崩壊するのはEUではなくて、世界全体となるだろう。

安易なポピュリズムやナショナリズムにとらわれている暇は、もう、ない。
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by mariastella | 2016-06-26 19:12 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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