L'art de croire             竹下節子ブログ

精神の健全さとは その13

前回からの続きです)

13.徴候性へのある程度の感受性を持つ能力

 「疲労感、余裕感、あせり感、季節感、その他の一般感覚の感受性」などの身体感覚をキャッチする能力。それらはまず徴候として現れる。

また、すべての能力は人間においては対人関係化するので、対人関係を読む能力も「徴候性を感受する能力」と関係しているという。

「いま、相手が親密性を求めているかいないかが分かる」かどうか、距離感とその変化を読む力も必要だ。

8番目に挙げられていた「二人でいられる能力」にもこれが必要だろう。

生活を共にしている相手でも、その距離感や親密性の欲求は相手の体調やストレスや他の要因によって刻々変化する。この関係はこうでなくてはならない、とかこうであったはずだ、という固定観念に縛られて自分も相手も強制してはいけない。

これは「空気を読む」能力とは少し違う。
「空気が変化する兆候をキャッチできる」かどうかなのだ。

これも中井さんらしく、「ある程度の感受性」としているので、なにも、いつもピリピリして空気の変化を読み取りながら先回りして対処しろというわけではない。

まして、それに絶対に同調しろというわけでもない。

けれども、「空気」や「空気の変化」の存在に全く気づかなかったり無視したりするのでは、精神の健全は保てない。

自分の身体感覚も含めて客観的に観察できるということは、これもある意味で分裂気質の保持でもある。

空気は空気であって「自分」ではない。空気を読むことは関係性の識別でもある。

宗教体験でいうと、これを推し進めるとある意味でリスク・ゾーンに近づくとも言える。

非常なストレスにさらされている人が、そこから逃避しようとして人格乖離を起こすことが、統合失調症の要因の一つになっているというのが最近明らかになった。

そこからの「回復」を必要とする人には、その一方に留まるのではなくその全体を空気、兆候性としてキャッチすることが大切になる。

そのようなサバイバルをかけた「逃避」の状態は、脳が、今キャッチしている痛みや苦しみの現実を感知、認知することをブロックしている状態だ。

そのようなフリーズ状態になった脳に、何か別のところから「声」が聞こえたり、別の人格が形成されたりする。それが脳の記憶のストックから取り出されたものなのか、あるいは本当に普段はキャッチしない種類の情報(死者の声とか悪魔や天使の声とか)をキャッチしてしまうのかは分からない。

その「声」や「情報」が、その人を危機から救ってくれたり慰めになったりするポジティヴなもので、かつ可逆的なものであるなら問題がない。宗教神秘体験の最良のものにもなり得る。

カトリック教会は、そのような「神秘体験」をすべて圧殺するのではなく、管理、識別、仕分けして、信仰の助けとなるツールとして多くの人に共有できるように体系化してきた。
その部分が、分裂気質の人が寄り添えたり自分を投影したり惧れを軽減したりするのを助けて来たし、それをさらに豊かなものにするのに貢献可能にもしてきただろう。

世にいう異端審問、魔女裁判のようなものばかりではなく、殉教者伝、聖人伝など危機をプラスに変えたポジティヴな証言記録の方が実ははるかにたくさん残っている。

カトリック教会が長い間これらの証言をばらまき刷り込んできたことにはそういうメリットがあった。

それが分裂気質の人を崩壊から救った方が多かったのか、パラノイア気質の人の病理を亢進させた方が多かったのかは、また別の問題である。
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by mariastella | 2016-06-30 00:31 | 雑感
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