ユーロ杯とヨーロッパ事情
サッカーのユーロ杯の準々決勝が始まり、佳境に入ってきた。
前にも書いたが私はサッカー観戦には興味がないのだけれど、近頃のヨーロッパ事情とサッカー・ナショナリズムを観察するのがおもしろい。 今回圧倒的な強さを見せているベルギー・チームなど、この国の監督ってワロン(フランス系)なのかフラマン(フランドル系)なのか、チームの共通語とは何か、などと、日頃、例えば役所でフランス語使用を禁じるフラマン系の町などのニュースを見聞きしているので興味津々だった。でもメンバーの構成を見てみると、一昔前とは全く違ってグローバル化(?)していて多様化しているのが分かった。 でもその「グローバル化」は、結局、「金になる強い選手に金が集まる」という新自由主義経済の流れと連動しているものなので、別にヨーロッパが人種差別や植民地主義を乗り越えたユニヴァーサルな世界になった、などという話ではない。 実際、月1億円と言うような法外なサラリーを所属クラブから得ているスター選手など、当然クラブでの活躍が優先するので、ユーロ杯やワールドカップの時にだけナショナルチームでプレイするのにベストコンディションでなかったり、チームワークに努力するというモティヴェーションがなかったりしても不思議ではない。 そのようなスター選手がいないアイスランドがチームワークとパッションでイングランドなど強豪を倒して、それが新鮮な感動を呼んでいるのは、金権社会にうんざりしている人々の空気を反映している。 フランスとイングランドが対戦することになっていたら、イングランドのフーリガンの暴力的逸脱に加えて、いろいろな低レベルの政治的揶揄の応酬があったかもしれないけれど、フランス対アイスランドになって、なんだかフランスは優しい空気になっている。 たとえ負けても低俗なナショナリズムが刺激されることはないだろう。 なぜなら、フランス自身、今回、スター選手のベンゼマなどをナショナル・チームに入れないという選択をしている。若手を多く起用した。 大金がもたらすモラルの不在がチームワークを乱すことが分かっていたからだ。 このようなハイ・レベルでの戦いは、個人の力よりもチーム全体のメンタルが重要になるのは当然だ。 サッカーが低所得層にとって社会的レベルアップの手段の一つであることは事実だ。けれども、そこに普通でない大金が動くので、人間としての成長や責任感が養われないまま妙な立ち位置に留まる選手がいることが、若い世代に悪影響を与えるという認識が、フランスで生まれつつある。 そこにアイスランドの健闘が加わって、スポーツのあるべき姿、のような空気がわずかだけれど醸成されているのだ。アイスランドがEU加盟国ではないのも楽しい。 今夜はポーランド対ポルトガルだ。 イギリスにはポーランドがEUに加わってから、なんと90万人のポーランド人コミュニティができていて、今回のEU離脱キャンペーンにあたって多くの嫌がらせを受けたという。 フランスでも、確かに、EU加入の後「ポーランドの配管工」というステレオタイプが生まれた。 ポーランド人は語学に優れているし、何をしても優秀でしかも安いというので「フランスの配管工」の生活を脅かすという話だ。 でも、それも、今では全く耳にしなくなった。 フランスはもともとポーランド人の移民が多かった国だ。 第二次大戦もポーランドを守るために立ち上がったという名目がある。 ポーランドがEUに加入した時、ポーランド人のローマ教皇がいた。 そして、そのようにローマ・カトリックの伝統のある国であることも手伝って、結婚のハードルが低い。 キュリー夫人の昔から、ポーランド人とフランス人の結婚はたくさんある。 同じ理由でイタリア、ポルトガル移民ともすぐに混ざってしまう。 政治的にも国際結婚へのハードルが低く二重国籍も認められている。 逆に言えば、イングランドに大量にやってきたポーランド移民のコミュニティにとっては、イングランドとの同化のハードルが高かったのだろう。 ユーロ杯にはEUに加盟していないアイスランドの他にやはりEU外で独特の立ち位置を維持するノルウェーやスイス、地政学的にいつも微妙なトルコ、ロシア、ウクライナが参加している(そういえば今回、トルコの空港の大規模テロの後、丸一日後にもう空港が通常営業しているというニュースに驚いた。ベルギーとはえらい違いだ。この速さはどう解釈したらいいのだろう)。 これから決勝までのいろいろな言説を分析して、それを夏のリオのオリンピックで、ワールドワイドなナショナリズムとポピュリズムの展開の仕方と比較できるのが興味深い。
by mariastella
| 2016-06-30 19:32
| フランス
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