L'art de croire             竹下節子ブログ

「民主主義」をフランスから見る

イギリスのEU離脱国民投票の結果から1週間経って、いろんな論調がそろい始めた。

BHL風の「愚民はミケランジェロと庭の小人(庭の芝生に置かれる安物の人形)の区別もつかない」というエリートが衆愚を怒るというタイプのものと、

「これが本当の国民の声を聞く民主主義なんだからあきらめろ」、「自分たちの思い通りに動かせると思いあがったエリートが悪い、いい気味だ」というものから「だから民主主義は機能しないんだ」

などなど。

でも、私がいつも思うことだけれど、日本から見ると「西洋から輸入された(あるいは押しつけられた?)理念の民主主義」とひとくくりにされることもあるけれど、イギリス型とフランス型はかなり違う。

そもそも、イギリスは議会政治の間接民主主義の国で、直接民主主義には慣れていない。

フランスは、大統領選も全国民投票だし、革命の前は、三部会の平民の声が無視されたからと言って革命という実力行使になだれ込んだ国で、その後は「国民議会」の多数決で恐怖政治に陥った負の経験がある。

それでもぼろぼろになって共和制を立て直し続けてきた国なので、今でもその名残はあって、直接民主主義の手段であるデモもストも日常の風景で、テロのリスクがあろうとサッカーのユーロ杯開催中であろうと、デモもストも平気で続ける。

高校生たちもデモやストの「洗礼」を受けるし、それを「通過儀礼」として両親や教師が支持するような国である。

でも、EU憲法条約批准の時のように、国民投票がまずい結果になってごまかしたこともあった。
そもそも黒か白かで「結論先にありき」のような問題については、確実な勝算があってかつ国民の言質を取っておくためだけの儀式でなければ国民投票をしてはいけない。99.93%の賛成票を得たナポレオンの皇帝就任みたいなものだ。これは民主主義ではなく儀式みたいなものだ。

賛成か反対かの二者択一の問題でやり直しがきかない問題は国民投票は向いていないというので、議会だけで歴史的な決定をしたのが死刑廃止だった。
あの時、世論調査では60%以上が死刑存続派だった。
死刑のような情動が影響する問題は、間接民主主義の「理」によって決める。

直接民主制の多数決なんて、スイスのように歴史的な直接民主制文化のあるところか、マンションの中庭でボール遊びを禁じるかどうかを自治会が決めるという類の狭い範囲の具体的な事項でなければうまく機能しない。

しかも、それでもなお、多数決の上位にある理念によるチェックが必要だ。
フランスでいうと普遍主義理念である。

私がよく例に出すのは、フランスのあるマンションの自治会で、ユダヤ人共同体が強く、土曜日(安息日)にエレベーターをとめるという決定が自治会でなされた時、非ユダヤ人の住民が国に訴えて政府が介入したという例だ。共有部分であるエレベーターの便宜を特定宗教の戒律によって他の人から奪うことはできない。

家庭内の問題でも、今は夫婦間セクハラや虐待、暴力も訴え出たり通報されれば介入できるのと同じだ。
家庭内決定権を持つ両親が一致して子供を虐待しても犯罪である。
ひとりひとりの安全や尊厳の権利は家庭や共同体内の伝統や多数決や独裁による決定によって侵されてはならない。

それでも、民主主義が一番文明的な政治形態だと言われる理由は、多数決で負けた側が殺されたり排除されたり貶められたりしない、ということがまずある。
二番目に、多数決の結果が出た後でも、少数者の意見がリスペクトされるか、反映されるか、少なくとも、「記録される」ということだ。
それにはもちろん議論が尽くされることが前提だ。
そして、間接民主制の場合、次の選挙で流れを変えることができる、修正が可能だということがある。

これらの条件をそなえたものが「民主主義」なので、

「情動」が煽られるようなテーマについて政治的な計算と思惑によって戦略的な賭けに出る安易な国民投票を行ったことが今回のヨーロッパの混乱の原因なのだ。

その他、フランスのメディアの反応で面白かったのは、在パリのイギリス大使などに「で、今度のことについて女王はなんと?」と聞いた人が何人かいたことだ。

王様がいなくなって久しいフランスでは立憲君主国の感覚がいまひとつぴんとこない。
イギリス人はもちろん誰も、女王が何というかなんて考えもしない様子だった。
この辺は、立憲君主制モデルに近い日本人には不思議ではない。

けれども、フランス人の反応を見ていると、アイデンティティやナショナリズムと「君主」の関係というのが、本当はあまり掘り下げられてないままにきている国のメンタリティが不思議と言えば不思議に思えてきた。
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by mariastella | 2016-07-01 06:48 | フランス
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