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L'art de croire             竹下節子ブログ

ユーロ杯とグループ感情、フランス語

しつこく、ユーロ杯について。

なぜかというと、私の一日は朝ベッドの中でラジオを小一時間聴くことで始まるのだけれど、フランスで開催中のユーロ杯の決勝が明日に控えているので、ラジオはそのニュースばかりやっているからだ。

今日も、選手の一人一人が今回は監督のデシャンと同じく、一貫してチームの一体感と謙遜と落ち着きを反映していることについてのコメントだった。

フランスと言えば、南アフリカのワールドカップで選手たちがバスから降りずに練習拒否のストを起こしたくらいチームワークに向いていない国民性の国だ。
柔道、水泳、スキー、フェンシング、などの個人競技の方が基本的に向いている。

でも、今回のチームは息があっていて個人よりチームを尊重し、感謝の心を忘れず、と、誰にインタビューしても同じ感じの答えが返ってくる。

よほどデシャンの教育、影響が功を奏しているのか、というより、デシャンは、自分に似ているメンタリティの選手のみを残したのだと言われている。

その結果、ベンゼマらの有力選手が消え、結果、ある意味、不思議なことになった。
いわゆるマグレバン系の選手はモロッコとの二重国籍を持つ選手が一人だけ(この人も怪我で抜けた選手の補充で入った)で、あとは、ざっと見て、白人系とブラック・アフリカ系ということになったので、見た目のコントラストが大きい。

98年に優勝した時は、Blanc, Black, Beur(アラブ人arabeのこと)の3Bのフランス共和国主義のシンボルのように言われたのだが、今回は、そういうことは言われずに、ただ、チームワークと謙遜のメンタリティだけが残る。

前半の「ヒーロー」だったパイエットは 「union 」ユニオン、合一という言葉を使い、

中盤のヒーローは「le sentiment du groupe」(正確にはsentiment d'appartenance à un groupe ) グループの感情、という言葉を使った。 結束ではなく感情、というのがおもしろい。

ドイツ戦のヒーローのグリエズマンは、インタビューに答えた時、主語に、「Je(私)」と言わず「Nous(私たち)」と使った。

なるほど。

そしてデシャンは常に、問題を先取りして対策を立て、問題が起こればきっちりとネゴシエイトする。
マネージメントの天才であるらしい。

こういうのを聞いていると、もう、個人の才能とかテクニックとかとを超えた次元の話で、逆に、身近なことに参考になる。私の小さなアンサンブルだとか、家族との関係だとか。

よくよく分かっていても、特定の身近な人間と何かをする時に、相手を批判する言葉が出たり、自分を正当化する言葉が出たりする。あるいはそれを抑えてフラストレーションになったりストレスがたまる。

シンプルと謙遜、これが一番大切というのは、修道院やら、シスターの口から一番よく耳にしたことばだ。

全面的に同意するけれど、適用するのは難しい。いや、自分の態度のデフォルトとしてシンプルと謙遜というのは簡単なのだけれど、身近な人と一対一になって意見が食い違う時、相手の態度が気に入らない時など、なかなかそうはいかない。

もう一つ、思ったのは、これだけ監督のコミュニケーション術が成功の一番の鍵になるのだとしたら、やはり日本のスポーツチームで、通訳を必要とする外国人監督を起用するのは限界があるんじゃないかということだ。テクニックに関するコーチなどは別として。

監督と言葉を共有するということはチームワークにとってとても重要なのではないだろうか。

さらにもう一つ、ラジオを聞いていて、ラジオのサッカー中継(私の聞いたのはもちろん再生だけれど)は、画面がないから、レポーターがのべつまくなくしゃべる。
そうやってすべてを言語化しているうちに、思い入れが一体になって、ゴールが決まった時などの叫び方や声の上ずり方が尋常ではない。
テレビなら、視聴者も目で参加しているから、言葉のシェアは限られている。

でもラジオでは、レポーターの「言葉」だけが頼りだ。聞いている方も言葉と一体化している。

コメントの言葉の使い方やフレージングももうあちらの世界に行ってしまっているので、それも興味深い。

「ラジオのサッカー中継から見たフランス語」という本が書けそうだ。

多くの人が言っているけれど、1984年のフランスのユーロ杯でフランスが優勝した時にはこのような社会現象はなかった。

社会現象になり始めたのが90年代で、グローバリゼーションや経済格差とも連動する。

そしてジダンのような最初の「移民の子孫」の活躍から、ベンゼマのような問題児に至り、グリエズマンのような新世代まで、フランスの社会事情の鏡のような部分がある。

日曜の結果は、さて、どうなるだろう。
by mariastella | 2016-07-09 18:14 | フランス語
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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