L'art de croire             竹下節子ブログ

ニースのテロについての言説(続き)(追記あり)

昨日と同じく、これを書いている時点では、トルコの情勢の分析の方に関心が向かっている。

「民主主義の勝利」みたいなことを言いながら、復讐する気満々のエルドアンの独裁体制が強化されて、イスラム化も進むと思うと複雑だ。
テレビで見ていると、イスラム・スカーフをつけた女性も少なくなく、ついこの前までのフランスより厳しい規制はどうなったのだろうと思う。
シリアやイラクと国境を接していてクルド問題もあるし地政学的に難しい国なのはよく分かるだけに、どうなるのか心配だ。

でも、ニースのテロの件でフランスの様子を知りたい方もいるようなので、ざっと今の時点で昨日の続きを書いてみる。

ラマダンもしていない、酒も飲む、と言われていたニースのテロリストは、極々最近、ひげを生やし始めてあっという間にISに洗脳されたと言われていて、ISが声明を出した。

普通の車も武器になるというのもISが何度も示唆していたものだ。

けれども、今回のやり方は、子供の犠牲者がいたこともあって、テロの場面を見て、「英雄的行為」に次のテロリスト志願者が鼓舞される、というモデルとは少しずれている認識があるようだ。

リヨンの近くであったテロの時、テロリストが殺害の様子や遺体損傷の様子を自撮りしていたことがあったが、ISがそれを自分たちのプロモート・ビデオに流す時に、編集し、残酷シーンをカットしていた事実がある。

つまり、あまりにも突出した変質者が猟奇犯罪をしているように見えては、ジハード志願者を離反させて逆効果だということをちゃんと計算しているのだ。「聖戦」に見えなければいけない。

だから、こういう「にわかISシンパ」による勝手なテロが増えるようならば、一見まるでガン病巣が転移したようで怖いけれど、長い目で見ると勢いが弱まって自壊していくかもしれない。

また、最初のニュースでは、まるでトラックが軽々と突破して2kmも突っ走って人々をなぎ倒し後ではじめて警察に止められたかのような印象を受けたけれど、トラックが最初に突っ込もうとした時のビデオが放映されると、それを何とか止めようと割って入ったオートバイ(?)か何かに乗った人がいて、倒されてしまったのが分かる。(追記: 自転車だった。その人のインタビューをテレビで見た。夢中で何とかしようとした、彼がトラックに絡んだ150メートルの間には死者が出なかったのがせめて慰められたというようなことを言っていた)

最初から発砲した二人の警官もいたし、阻止しようと後を走った人もいて、もちろんみな無駄に終わったのだけれど、複数の人間が止めようとしてアクションを起こしていたのが見えて何となく力づけられた。
大型トラックのテロの前では無力だったかもしれないけれど、少なくとも、テロリスト1人に対して阻止の行動を起こした人の数の方が多かったわけだから。

というのは、今回のような、ISのビデオを見て突然過激化したようなテロリストは、警察の危険人物のリストには載らない。
どんなに警察や軍隊を繰り出しても、こぼれ落ちる。
セキュリティ強化や諜報にも限界がある。

そのことを評して、

この種のテロのセキュリティを担うのはもはや「国」ではなくて社会や家庭だ、

と言った人がいた。

これは別に、みなが相互監視しろという意味ではない。

ましてやアメリカのように自衛のため拳銃を持てというわけではない。

「絶対悪」に対する戦争を国や警察がやればいい、というこれまでの見方から、

このようなタイプのテロリストを養って実行に踏み切らせる社会の土壌や病理そのものを見てどのようにそれを緩和、根絶、治癒できるのかという問題意識を社会全体、またその単位としての家族が共有しなくてはいけない、という意味だ。

昨年から、フランスが、シャルリー・エブドやバタクラン、ニースの遊歩道、と、嫌なことだが、いろいろなタイプのテロに見舞われてきた中で、特定のグループ(郊外に住む移民の子弟とか)をスケープゴートにまつりあげたり、特定の政策を弾劾したりなどが困難になってきたからこそ育ってきた良識も確かに感じられる。

レイシズムの正当化やイデオロギー対立のツールには納まらなくなってきた。

社会的な自覚を深めるのが次の段階かもしれない。

病気に例えれば、患部摘出手術や無菌室への隔離よりも生活習慣や環境を変える方向も視野に入ってきたということだろうか。一抹の救いが感じられる。
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by mariastella | 2016-07-17 06:39 | フランス
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