L'art de croire             竹下節子ブログ

緊急事態の延長とサルコジ節の炸裂

フランスの緊急事態期間が結局、後3ケ月でなく6ケ月に延長された。

ニースのテロの後、テレビのメイン報道番組で水を得た魚のように久しぶりで次の「大統領候補」としてのサルコジが熱弁しているのを聴いてしまった。

なるほど、内務大臣上がりで強面のサルコジは、こういう時に語る言葉を持っている。
アドレナリン全開。

こんな「非常事態」にはやはりサルコジのような、プーチンのような、エルドアンのような、アサドのような公共の秩序を乱すものに対しては容赦ない決断を下せるリーダーが頼りになるよなあ、って誰もが一瞬思ってしまっても仕方がない。

ニースのプロムナードで犠牲者のために花やろうそくやカードがずっと供えられているのはいいとして、テロリストが撃ち殺された場所にはLACHE(卑怯者)と書かれ、空き缶などのゴミの山が築かれて唾を吐く人もいた(今は撤去されている)。

革命記念日という国民の祝日にトラックで突っ込んで子供を含む84人をひき殺した悪いやつ一人という分かりやすい構図だったから、悼む心とセットになって憎しみを表明するハードルが低かったということだろう。

で、それを利用して、これがシャンゼリゼだったらあり得ない、地方差別だ、ニースの警備の予算が少なかった、という怒りなどを伴う「責任追及」政治劇が始まった。

サルコジは、昨年のシャルリー・エブド事件以来、要注意人物を拘束したり自宅軟禁したりなどの処置をするという法が成立したのに、政府はこの18ヶ月間何もしていない、と非難した。
自分なら危険人物は直ちに一網打尽、という感じだ。

そこだけ聞くとなるほど今の政府はひどい、と思う人もいただろう。

それは当たっていない。

まず、今回のテロリストはいわゆる要注意人物のリストに上がっていず、最近一人でISのビデオを見て(勧誘者に接触されたという情報もある)独自に凶行に及んだ男だから、そのような予防処置の対象にならない。

また、政府は18ヵ月間その予防処置を放置していたわけではなく、憲法に照らし合わせて検討した結果、たとえ「緊急事態」宣言下でもそれは違憲であり、実行不可能という結論に達したということである。

つまり怒りや恐怖、パニックに駆られて通過した条例でも違憲性があって適用できなかった。

これは、国民の6割以上が死刑存続に賛成していた時期に、「冤罪による刑死者をたった一人も出さない」という決意のもとに「冤罪刑死者ゼロ」の唯一の手段として死刑廃止に踏み切った国の死守する一線なのだろう。

その死刑廃止ですら憲法に明記されるには時間がかかったのだけれど、憲法の前文には人権宣言が置かれている。
「人権宣言先進国」としての矜持が、たとえリスクを冒すことになっても、自由を拘束する予防措置には慎重であり続けるという原則に殉じる覚悟を持たせるのかもしれない。

「疑わしきは罰せよ」などというコンセンサスは多くの悲劇を生んできた。

誰でも、時と場合によってはあっという間に「疑わしい」側に「認定」されることがあるのだ。

共感の幅を狭めてはならない。

個人的には、ドイツの電車で斧を振り回してけが人を出したテロリスト(?)の方が、ある意味で怖い。

カラシニコフだとか爆弾とかなら何が何だかわからないうちにことが終わるかもしれないけれど、「斧」って、なんだかホラー映画みたいだ。

しかも、わずか17歳のアフガニスタンからの難民の青年による犯行だった。

こういう絶望を見ていると、「18歳でちゃんと選挙に行きましょうね」なんていう平和な国と同じ時代の出来事とはとても思えない。

けれでも、その平和な国にも、ごまかしや野心やデマゴギーや憲法の勝手な解釈や改訂に向けてのサルコジ・テイストの言説が垂れ流されているようだ。

新政府となるイギリスや、テロの脅威にさらされるドイツやフランスのやり方をじっくり観察しながら判断の眼を養いたいところである。
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by mariastella | 2016-07-21 00:06 | フランス
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